Early Summer/2017

5th Anniversary of SIGMA GLOBAL VISION

今のSIGMA、これからのSIGMA

2012年秋に、すべての製品および事業活動の刷新に取り組む「SIGMA GLOBAL VISION」をスタートして5年。SIGMAの「これまで」を振り返り、「これから」を展望します。

text: SEIN編集部 photo: Tsutomu Sakihama

5年目のSIGMA GLOBAL VISION

2012年に開催されたPhotokinaにおいてSIGMAは、「SIGMA GLOBAL VISION(以下、SGV)」と銘打ち、すべての製品および事業活動の刷新に取り組むことを発表しました。交換レンズ全機種をすべて「Art(光学性能最優先、画質特化型)」「Contemporary(全体最適、ハイパフォーマンス追求)」「Sports(フルスペック、高い運動性能追求)」という、開発コンセプトに基づく3つのラインのいずれかに整理統合し、提供していくことを、各ラインの初号機である35mm F1.4 DG HSM | Art、 17-70mm F2.8-4 DC MACRO OS HSM | Contemporary、120-300mm F2.8 DG OS HSM | Sportsの3機種とともに紹介。「これからのSIGMA」がどのような方向に進んでいきたいと考えているのかを表明しました。

以来今日までに、スチルカメラ用交換レンズは26機種*に拡充。2013年以降はレンズに加え、Foveonセンサー搭載のデジタルカメラ、dp/sd Quattroを相次いで発表し、現在6機種*に。関連アクセサリやソフトウェアも含め、SIGMAの写真やものづくりに対する考え方を反映した「システム」として展開しています。また2016年秋には、アムステルダムで開催された「IBC」で映像用交換レンズ「SIGMA CINE LENS」シリーズを発表。現在10機種*をリリースしており、製品領域の拡大に挑戦しています。

(*2017年4月現在)

CP+ 2017のSIGMAブース内ステージで新製品発表のプレゼンテーションを行う代表取締役社長の山木和人。

「新生SIGMA」を目指し、既存路線を超える

本社マーケティング部の部長として製品と市場をつなぐ陣頭指揮をとってきた新妻隆士は、この5年間の取り組みを次のように振り返ります。

「今でこそ新製品発表のたびに、『Artラインの画質なら』とか『最近のSIGMAなら』などとありがたい評価もいただけるようになりましたが、軌道に乗るまでは大変でした。5年前、山木が代表取締役社長に就任すると同時に、『全製品のリニュアルにとどまらず、“ものづくり”および事業活動も刷新、新しい価値を提供できるブランドを目指す』というSGVの方針を打ち出したのですが、概要を聞いた時は青ざめましたから(笑)」

「それまでの上位機種ラインである『EXシリーズ』を廃止し、『全機種プレミアム化』する。そして独自の設計コンセプトと性能基準によって全く新しい製品カテゴリを創設する。これらは、自社の既存路線だけでなく業界の慣例に照らしても前例のないことなので、冒険しすぎだと感じたのです。また一方で、高い志を持って臨んでも、我々のような小さなメーカーがどこまで良いインパクトを与えられるのか、半信半疑でもありました」

すでにその当時EXシリーズは、2000年代初頭からの高付加価値化路線によって、性能面でも、またビジネスの面でも国内外の市場で安定した評価を得ており、その時点での「改革」はリスクが大きすぎると感じたのも事実だと新妻は言います。

「今だから言えますが、大いに不安といいますか、反対でした(笑)。おかげさまで初号機3機種を発売してすぐにポジティブな反響があり、『これならいけそうだ』と実感できるまで時間はかかりませんでしたが、当初は子会社も含めた社内の人間はみな同じ気持ちだったと思いますね」

今日の安定か、明日の成長か

製品と事業活動の刷新を決めた山木和人(代表取締役社長)は、当時をこう語ります。

「実は誰よりも私自身が不安でしたし、思い切って改革すべきか、慎重を期すべきか、大いに迷い、悩んでいたんですよ。自分としては、市場の動向や自社の規模を考えると、SIGMAが真に愛されるブランドとなるには、現状の『安定』を守っていても早晩行き詰まるのは間違いないと思っていたので。ただ、カメラやレンズの市場は、どちらかというと保守的な世界ですから、すでに評価され定着しているものを廃止し、まったく新しい考え方を提示して、はたして好意的に受け入れていただけるのかという強い懸念がありました」

「その少し前からすでにカメラ市場の伸びのピークアウトを感じていたこともあり、この先市場が縮小したとしても、突き抜けた魅力を持つ、唯一無二の存在感のあるブランドとなっていけば恐れることはない、SIGMAの事業規模と基盤なら、今のうちに舵を切って邁進すれば結果は出せるはずだ、という気持ちもありました。最終的には、“最高のものづくり”を追求できる道かどうか、という観点で迷いを断ち切り、既存路線をすべて見直すことにしました」

誇れる仕事、誇れる製品

「私自身はエンジニアではないですが、良いものをつくりたいという思いはやはり強かった。高い志と情熱を持っている従業員に、より高いレベルを目指し、自分の仕事に誇りが持てる『ものづくり』を追求してもらいたい。一つひとつの製品に、作品という気持ちで丁寧に取り組めたら幸せだし、お客様にもそのように感じていただきたかったんです。であれば、“納得のいく、質の高い仕事”ができる道はどちらかを考えた時、ドラスティックに変えるよりほかに選択肢はない、と」

結果としてそれが、今の当社製品への評価や、メーカーとしての姿勢や印象の素地になっている、と山木は語ります。

「当社の場合、開発なら明確なコンセプトを示して委ねることで、あるいは製造なら不可能や限界に挑んでもらうことで、期待以上の素晴らしい仕事をしてくれます。例えばSGVラインのレンズが『全機種プレミアムの性能と品質管理』『優れた質感、細部の仕上がりの上質さ』『柔軟で高精度のカスタマイズが可能』と特長づけられるのも、それぞれのスタッフの“納得のいく仕事”の賜物です。高い志を持って精魂込めた特徴的な製品を通して、ものづくりの姿勢がお客様に伝わり、喜んでいただく。それらの全体的な印象として『最近のSIGMAはいいね』と言っていただける循環が生まれていることが嬉しいですし、5年間やってきた一番の成果かもしれません」

「CP+2017」のSIGMAブース。ニュアンスの異なる3種の黒をベースにデザインされた。

ブランドとしての意思表明

「その意味では、設計や製造、品質保証などの現場だけでなく、製品を介したお客様との関係の見直しが、SGVの一番の変化といえます。「レンズやカメラなど製品単体の性能や品質を追求するのはもちろんですが、それらを『システム』として拡充し、資産価値を高められる関連アクセサリやソフトウェア、サービスとして展開することに力を入れてきました。例えば、カメラボディを替えてもレンズシステムを維持できる『マウント交換サービス』や、レンズの細やかなカスタマイズができる『USB DOCK』、一つのレンズシステムを異なるカメラで共有できるマウントコンバーター『MC-11』など、いずれもユーザーの便益最優先で開発されています。これは、ユーザーにとってSIGMAがどのような存在でありたいかという意思表明でもあるのです」(新妻)

写真を撮るための道具を

SGV発足当初の予見通り、5年経った今、カメラ市場は大きく様変わりしています。スマートフォンやアプリの進歩によって、簡便に何不自由なく写真が撮れる現在、写真を撮るという行為の意味や、写真を撮るための道具の価値を、メーカー側がこれほど問われている時代はないでしょう。

今年のCP+2017では、SIGMAブースの設計コンセプトを「遠回り。」とし、順路の導入にメッセージとして大きく示しました。

「前年のCP+2016、そしてPhotokinaと、基本的には同じ方針で展開してきたのですが、今回はさらに一歩踏み込んで、我々SIGMAが『何をメッセージとしたいか』を明確にしたうえで、来場された方々に製品やコンテンツに触れていただこうと考えました」

「重くてかさばる、お金もかかるカメラやレンズを選び、構図や光を熟考して、『これだ』という瞬間を狙う。そういう時間や手間ひまをかけて写真を撮る行為は、ややもすると敬遠されがちです。でも、やはり写真を撮ることが好きで、いい写真を撮るための道具の意味を大事に考えてくださる愛好家を大切にしたいですし、市場の拡縮にかかわらず、価値を見出してくれるユーザーを増やしていきたい。そういう価値観を共有する方々にとって、本当に価値のある製品やサービスとは何かを考えて形にし、メッセージとして伝えていくことが我々の使命だと考えています」(新妻)

挑戦を、変化を恐れずに

「これまでは市場からもお客様からも好意的な評価をいただいてきました。が、まだまだ『従来比』『大手比』というエクスキューズ付きであるとも感じています。前提条件なしでも『SIGMAでなければ』と言っていただけるブランドになるためにも、挑戦的なものづくりを究めるとともに、未熟な点をさらに鍛錬し成長せねばならないでしょう」

「何年後かにはもっと違う地平に立っていないといけないですし、写真や映像をとりまく環境がどのようになっていたとしても、そこでの確かなプレゼンスを確立していたい。これまでもそうであったように、現状に安住することなく、常に挑戦しながら、意識的に変化し続けなければと考えています」(山木)

Share on social media