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根本敬ゲルニカ計画

text: SEIN編集部 photo: Yasuyuki Emori/Hanae Miura

2018.01.24

昨年12月、ミヅマアートギャラリーで開催された「根本敬展 『樹海』」。特殊漫画家として知られる根本敬さんが半年をかけて描きあげた、パブロ・ピカソの《ゲルニカ》(1937年)とほぼ同サイズ(333.3×788cm)の大作『樹海』が展示され、大きな話題となりました。

この「根本敬ゲルニカ計画」と称する制作プロジェクトは、現代美術家の会田誠さんや画材メーカー、クラウドファンディングに賛同する一般の方たちなどのさまざまな協力で実現したといいます。制作場所となったのは東京・大田区京浜島にある鉄工所の一角で、写真家の江森康之さんが制作過程のすべてを定点撮影などで記録していきました。

「ゲルニカ計画」というユニークなドキュメンタリー撮影にあたって江森さんが選んだのは、SIGMAのカメラとレンズ。その理由と撮影後の思いをご本人にお聞きしました。

 江森さんは以前からSIGMAの製品を使用してくださっているそうですね。

江森 最初に使ってみたのがSIGMA DP2xで、発売当初の2011年に知人に勧められて購入しました。レンズはSIGMA 35mm F1.4 DG HSM | Artと、SIGMA 50mm F1.4 DG HSM | Art。こちらも発売と同時に手に入れました。

 ご使用になった実感はいかがでしたか?

江森 SIGMA DP2xは、ISO感度を上げずに50か100で撮っていますし、露出も適正を大切にしているのですが、その条件が揃った時は素晴らしい画づくりの力を発揮してくれることが分かり、撮影していて面白いですね。Foveonセンサーは、仕上がりがフィルムで撮影したような雰囲気で、最初から「好きだな」と思いました。

 今回の撮影ではどの機材をご使用になったのですか?

江森 定点撮影用に使用したのは、カメラがsd Quattro H、レンズがSIGMA 12-24mm F4 DG HSM | Artです。

 なぜ、この2機を?

江森 5,100万画素相当というsd Quattro Hの高画素数と、Artシリーズの独特な解像感が一番の理由でした。色も「しっかり、こってり」出るので、根本さんの絵と合うのではないかと。また、企画当初は制作現場のどこに定点カメラが設置できるか分からなかったので、どんな現場でもフレキシブルに対応できるよう、ズームレンズを選択しました。

 根本さんの作品は、巨大なサイズで、しかも隅々まで非常に細かく描き込まれていますね。その制作過程を定点で撮影していくというのは、とてもユニークな試みだと思います。

江森 根本さんとは以前からご縁があったので、今回声をかけていただいた時はうれしかったですね。撮影方法もすべてこちらに任せていただきましたし、根本さんはまったくカメラに明るくないので(笑)、カメラを定点に設置し、ご自分で描きながら随時シャッターを切ってもらおうと。1日に5~6枚は撮ってもらいましたから、最終的に定点写真は861枚にもなりました。

 861枚! それはすごい数ですね。

江森 根本さんも「アニメーションみたいだね」なんて言っていましたけど、連続で見ていくと本当に面白いですよ。作品が育っていくのをじっと見守っているみたいな感じです。その他に、要所要所で僕もアトリエに行って、制作の様子をポートレート的に撮影していますから、撮影総数はかなりの数になりますね。

 それにしても、あのディテールを写真で再現するのは難しかったのでは?

江森 制作の終盤、根本さんはポスカ極細を使用して絵を描いていましたから、確かにディテールは非常に緻密な仕上がりになりました。が、sd Quattro Hの5,100万画素はその細かさも写し取っていたので、精細な記録という意味においても選んで正解だったと思います。

 最後に、今後のSIGMAに期待することなどがありましたらお聞かせください。

江森 今回のような撮影はそうそうあるものではありませんが(笑)、僕はポートレートの仕事がメインなので、その撮影ではこれからもArtシリーズのレンズが役立ってくれると思います。あの解像感が僕のイメージにぴったりで、気に入っているんです。SIGMAと聞いて思い浮かべるのは、「先進的」という言葉ですね。次はどんなものが出てくるか楽しみにしています。

根本敬さんが語る「ゲルニカ計画」

「ゲルニカ計画」は、10年ぶりに再会した編集者が開口一番、「根本さん、塗りで絵を描いてみませんか?」って言ってきたことから始まったんですよ。僕の漫画のコマをものすごく巨大化すれば、美術作品になるんじゃないかと。僕自身もちょうど、次へのステップのためにペインティングに挑戦しようと思っていたところだったので、すごく良いタイミングでした。

江森さんとも、出会うべくして出会ったといえるご縁があって、今回撮影をお願いできました。といっても、定点撮影と言われても僕には撮影方法なんてまったく分からないから、セッティングして、「ここを押せば撮れますよ」という状態にしてもらってから、制作開始。ちょっと描くたびに脚立から降りてカメラまで行って、パシャッとシャッターを切って。はたから見れば面倒かもしれないけど、後から見ると、ちょっとした数分間でパパッと絵がどんどん出来上がっていくんです。その過程が、一種のアニメーションを見ているようで、自分でもとても面白かったですね。

それに、撮影画像を拡大して確認してみると、ディテールまではっきり分かるんですよね。「あぁ、昨日の段階でこうだったんなら、今日はここまでこう進めよう」とプランを立てられるんですよ。今回の制作は、頭で考えるのではなく実際に体を動かしながら描き進めていく、という感じだったので、とても助けになりました。

江森康之

写真家

1979年生まれ。2002年、写真集「赤目四十八滝心中未遂」(リトルモア)でデビュー、以降ポートレートを中心に撮影。

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