[ SIGMAで写真を楽しむ人の、とっておきのフォトファイル ]

DP1 Merrill—別の時代を想起させる稀なカメラ

Václav Tvarůžkaさんアーティスト

禅問答のようなことを言うつもりはないのですが、私は日常のありふれたものには興味がわきません。にもかかわらず、結局のところ私が真に興奮するものといえば……日常的なものの写真なのです。私が選んだ被写体を見てみてください。床、死んだウサギ、鳥の巣箱、木、ドア、パンクしたタイヤ……。共通しているのは、どれもがある意味で破壊されているということですが、それだけにとどまらない複雑さがそこにはあります。

私は写真にユーモアがあることを大切にしています。具体的に言うなら、コメディ、不条理、ナンセンスといったものです。でも、これらに対する認識は時代とともに変化するものですし、特にこのソーシャルメディアの時代では、誰もが皮肉や不条理を当たり前のように操っていますよね。それに対して、何の反感もないふりをして、「まあ、私も人間なのでね」みたいなことを言って一緒になって遊んでもいいのですが、私はそうはしません。私がしたいことは笑いを誘うことでも、注目を集めることでもないのです。ただただ、私は写真が持つ静けさが好きなのです。

私はいわゆる「ドキュメンタリー写真」というジャンルの出身と言いたいところですが、このジャンルに新しいアプローチを見つけようと努力しています。このようなアートの形(形って一体何の形でしょう?)、つまりこうしたジャンルの写真というものは、より深いレイヤーを持っていなければ、単なる表層的なデザインで終わってしまうと思います。では、私自身はデザインに対抗できるような何かを持ち得ているのか……まあ、一筋縄ではいきませんね。

私がSIGMAのDP1 Merrillを買った理由が表層、例えば外観のデザインなどにあったのかどうかも定かではありません。確か「レンガみたいな形」という話をインターネットで読んだ記憶はあります。でも、このカメラが持つ色とディテールの再現性の高さで言うと、かなりすごいレンガと言えますよね。

そして特筆しておきたいのは、この小さなカメラが表現するディテールの量の膨大さです。これを嫌う人なんているのでしょうか? 全体的には素晴らしいツールなのに、なぜこんなに使っている人が少ないのか、私には不思議でなりません。とは言うものの、バッテリーに関しては不可解な部分がありますけれど……。

そんな思いを言葉にしようとしていると、なぜか昔読んだ1920年代のパリの写真家の話が浮かんできました。長くなるので、今はひと言だけお伝えしましょう。このカメラを使っていると、別の時代の(もしかしたら未来の?)ツールを使っているように感じるということです。それほど、稀なクオリティを持ったカメラだと思います。

Václav Tvarůžka

アーティスト

チェコ プラハ在住。1986年生まれ。写真分野での修士号を取得。
「ツアーバンドのドライバーとして主にヨーロッパで仕事をしています。私自身もバンドに所属していて、担当はドラムですが、ギターも演奏します。ヴォーカルはやりませんが、歌うのは好きです。また、写真を撮る一方でZINE(個人的な雑誌)を作るのに興味を持ち、過去に何冊か制作したこともあります。」

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