The importance of pure water 水が綺麗でなければならない理由

2018.02.22

「レンズ工場をつくるには、水が綺麗な土地でなければならない。」

 

これは、古くから業界内外で語り継がれてきたことであり、現在でも当社の会津工場を訪問される多くの方から、レンズ加工と水の関係についてご質問をいただく。

実際、当社の会津工場がある福島県磐梯町も名峰・磐梯山の麓に位置し、山からの清流や日本の名水百選に選ばれるほどの湧水群に恵まれた「名水の町」である。この地域で穫れる会津米を同じく当地の水で炊くと柔らかい食感と深い甘みが味わえるからと、磐梯町内外から多くの人が湧水を汲みに来る。

他社のレンズ工場、とりわけ操業歴の長い工場を見ても、山岳地帯近くの水の豊かな土地にあることが多い。しかし実際には、その土地の水質とレンズ加工の精度とは直接の関係はない。もちろん、茶褐色に汚濁するほど不純物の多い水ではレンズ加工も困難を極めるだろうが、ごく普通の飲料水レベルの水が確保できるのであれば、工業製品の加工上は何の問題もないはずだからだ。

これはあくまで私の推測に過ぎないが、レンズ工場には清澄な水が必要だとする「定説」は、まだ上水が十分に整備されていなかった時代の話がそのまま語り継がれてきたためだと考えている。

その一方で、私自身は、それとは異なる理由から「やはりレンズ工場は絶対に水が綺麗な土地でなければ」と信じている。清冽な水に恵まれた土地に生きる人々のメンタリティは、レンズ加工にとって不可欠な要素だからである。

一般に、こうした土地は気候の厳しい高地であることが多い。冬には豪雪地帯となるところも少なくない。我らが磐梯町を含む会津地方などはその典型だ。今日でも、連日降雪・積雪に見舞われる真冬は、誰もが少なくとも1時間は早起きし、自宅で雪掻きをしてから出勤するという具合だ。

彼らは常日頃から規律正しく勤勉な生活を旨としている。おそらく長い年月、わずかな気の緩みや手抜かりが命取りになるような厳しい環境で、気候の良いうちに働けるだけ働き、冬支度を万全にし、長く厳しい冬を忍耐強く過ごす中で、自然と培われてきたのだろう。

こうした規律正しさと勤勉さは、ミクロン、あるいはナノオーダーの精度を追求する超高精度加工にとって最も重要な資質だ。一つひとつの仕事を丁寧に、真摯にやり遂げる。些細なこともゆるがせにしない粘り強さが、性能と品質を支えてくれている。

当社はこれからも、厳寒の地、会津地方の人々のこの心性を最大の強みとして、最高品質の製品づくりに挑戦していくつもりだ。

(文/山木和人 シグマ代表取締役社長)

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