2018.08.15

KG+2018 × SIGMA REPORT

セミナー&トークイベント Foveon Special Talk
「写真家にとっての写真集と撮影技術」

第1部
「もうひとつの撮影技術撮影技術“製版”とFoveonセンサー」
作品集制作をめざすすべての写真家とクリエイターのためのセミナー(後編)

講師:鈴木一誌(ブックデザイナー)

SIGMAが「KG+2018」出展プログラムのハイライトとして展開した「写真家にとっての写真集と撮影技術」をテーマとする3部構成のリレートーク。
引き続き、鈴木一誌さんによる第1部「写真家のためのセミナー(知識編)」の後編をお楽しみください。

■第1部:知識編■
4月21日(土)14:00-15:00
「もうひとつの撮影技術“製版”とFoveonセンサー」
作品集制作をめざすすべての写真家とクリエイターのためのセミナー
講師:鈴木一誌(ブックデザイナー)

7 SIGMAのイメージセンサーは人間の眼に近い

SIGMAのセンサー「Foveon」は、眼球の中で最も感度の高い部分、網膜中心窩(フォビア・セントラリス=Fovea Centralis)」にちなんで命名されています。もっともシャープに見える眼の中心部で見たかのようなセンサーをつくりたいとの思いで、生みの親であるディック・メリルさんが名づけたそうです。

色情報には1次色、2次色、3次色とあって、RGB各単色からなる色を1次色、RGBのうちの2色の組み合わせからできた色が2次色、RGB全部揃った状態を3次色と言います。人間が肉眼で見ているのはすべて3次色の世界です。SIGMAのFoveonセンサーは、垂直色分離方式によって、色情報を連続的に取りこんでいますので、最初から3次色の情報です。対してベイヤー配列は、フィルターでRGB各色を水平に分配して、そこから2次色、3次色を組み合わせていきますから、最初から3次色のSIGMAとは逆方向なんですね。

ここにある図は、電磁波である光が印刷物になるまでをわたしが図にしてみたものです。SIGMAのFoveonは、人間の眼が最初に光を感じるのと同じ地点から、イメージの受容を始めています。これに対してベイヤー配列は、デジタルデータ化されたRGBから始まっている。出発点の違いがわかります。

8 SIGMAのFoveonセンサーは色の情報を連続してもつ

垂直色分離方式によるSIGMAのセンサーは、フィルターを使っていないので、情報の空白がありません。ここで、荒木経惟さんの写真集『陽子ノ命日』(ワイズ出版、2015年、デジタイズ=西川茂)を見てみましょう。キャビネに紙焼きされたプリントからSIGMAで撮影しました。ある1ページをピクセル等倍に拡大してみても、階調が保たれています。ためしに同じ写真を、ベイヤー配列のフラットベッドスキャナーでデジタイズして比べてみます。

SIGMA
ベイヤー

ベイヤー配列だと、階調が破壊されているのがわかります。このテスト(画像提供=西川茂)も、業務用フラットベッドスキャナーを使っているので、品質は高いはずですが、階調に連続性が感じられません。

つぎは、恥ずかしながらわたしがミカンの名産地・宇和島で、SIGMA dp0(ゼロ)でミカン箱のタワーを撮ったものです。左の写真(下左)を5倍に拡大しても(下右)、モアレもなく籠のアミ目がきれいに出ている。画素数では予測できないくらいに、拡大に耐えられます。FOVEONが情報を連続してもっているからですね。

9 Foveonセンサーと色空間

FoveonのRAWデータは、その色情報を空間としてもっているそうです。どのような色空間なのか、詳しいことは企業秘密らしくて教えてくれません(笑)。なので、よく知られている「CIE LAB(シーラブ)」の色空間(下図)をモデルに、Foveonの画像情報を理解しておきます。「CIE LAB」は直交するA軸B軸で色相を決め、L軸で輝度情報を指示して、結果的に、3次元の座標の中に固有色を画定させます。これに似た色空間情報をSIGMAのRAWデータはもっているのではないでしょうか。固有色の背後に3次元を抱えている、と言ってよいでしょう。

出典:『図解 カラーマネジメント実践ルールブック』(MD研究会ほか編著、ワークスコーポレーション、2007年)

つぎに『カラーで甦る古代遺跡の写真』(古代オリエント博物館、2015年)のページを繰ってみましょう。写真家・三枝朝四郎が東京大学イラク・イラン遺跡調査団(団長=江上波夫)に同行して撮影したカラー写真があります。およそ60年前のカラーポジですので、褪色が激しいのですが、幸い印刷物(1981年)が残っており、それをターゲットにして、北海道の印刷会社・株式会社アイワードが、「褪色カラーのデジタイズ復元」をしました。ここでも、印刷物の耐久力を感じます。ここでも、SIGMAのFoveonセンサーが使われています。

褪色したリバーサルを、こうやってダイナミックに修復できるのはなぜか。Photoshopで色の補正をしたことがある方ならわかることで、部分部分をパッチワークのように補正していくと、たいへんな手間がかかるのと、補正する人間の恣意が入って、全体と部分のバランスが崩れ、資料的な価値がなくなります。褪色とは色空間のねじれだと考えれば、SIGMAで撮影して色空間ごと回転させて補正すれば、資料性を損なうことなく復元できることになります。

10 予測できない自然界や物質の肌理を捉える

自然界は予測不能なテクスチャをもっています。自然や物質の肌理をどう捉えるか。これは、第2部の伊丹豪さんの現場体験からも語られますが、別の角度から見てみましょう。

これは、須田一政さんの写真集『かんながら』(Place M、2017年、デジタイズ=西川茂)。須田さんにモノクロのネガを探してもらい、モノクロのネガをライトテーブルに置き、SIGMAのマクロレンズでネガそのものを撮影しデジタイズして、写真集にしたものです。プリントへと焼き付けられる段階で、銀塩フィルムのもつ情報がどうしても省略されてしまいます。ネガから直接にデジタイズしたほうが、階調や細部がゆたかに表現できる可能性があります。

たとえばこの写真では、撮影時のストロボの中の発光体が写っているのが見えますね。これは紙焼きではぜんぜん見えなかった。ストロボの発光体は、言ってみれば「白の中の白」ですからね。ところがSIGMAで撮ったら、はっきり出てきた。銀塩フィルムは、人間の眼で見える以上の情報をもっていて、SIGMAのカメラは容赦なく情報として取り込んでくる。銀塩という物質の予測不能なテクスチャをFoveonセンサーは捉えるのです。

もうひとつ例をあげます。2冊の写真集の比較です。『場所』(晩聲社、2000年)と『アット・オウム @aum』(ポット出版、2015年)で、両方とも写真家・古賀義章さんがオウム真理教のサティアンを撮った作品集です。『場所』は、ドラムスキャナーによって、『アット・オウム』はFoveonセンサーでデジタイズしました。両方とも西川茂さんが手がけています。両方に共通して掲載されている写真が何枚もあります。その共通している写真を見比べると、ドラムスキャナーとFoveonセンサーの性能差がわかります。ある写真では、夜空に、『場所』では見えなかった星が見えてきています。全体の遠近感も圧倒的にちがいます。ここでも、銀塩という物質のテクスチャをFoveonセンサーは着実に捉えています。

11 遠近感・立体感を表現するために

写真集をつくる場合、何を重視すべきか。重要なのはトーン、階調です。トーンと階調で何を表現するか、それは遠近感・立体感です。一方、印刷というのは平面です。平面な印刷において遠近感と奥行きを表現するという、この絶対的な背理に挑戦しているのが印刷術なのです。グーテンベルクの印刷以来、平面の中で、世界という立体をいかに表現するか、これが人類が営々と挑んできたテーマです。遠近感・立体感を出すために、色彩や肌理の連続的な情報が重要です。撮影にせよ、デジタイズにせよ、連続的な画像情報をもたらすのが、SIGMAのFoveonセンサーです。身近なSIGMAのカメラでここまで鮮鋭で精確な映像の定着が可能であるのが、ご理解の一助になれば幸いです。

鈴木 一誌

ブックデザイナー

1950年東京都生まれ。デザイン批評誌『d/SIGN』を戸田ツトムとともに責任編集(2001~2011年)。神戸芸術工科大学客員教授。著書に『画面の誕生』(2002年)『ページと力』(2002年)『重力のデザイン』(2007年)『デザインの種』(戸田ツトムと共著、2015年)『絶対平面都市』(森山大道と共著、2016年)『ブックデザイナー鈴木一誌の生活と意見』(2017)など。

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