SIGMA meets SEEKERS vol.4

Early Summer/2015

[その先を追う表現者たち]

Yohei Sadoshima

人は、感動に対価を惜しまない。
僕の仕事は、その感動を最大化すること

  • 佐渡島庸平さん株式会社コルク代表取締役社長

既成概念に縛られず、作品が与える“感動”を限りなく最大化する。
それが、クリエイター・エージェンシーというビジネスを立ち上げた佐渡島庸平さんの挑戦です。「心を動かす」ことの可能性と重みに、SIGMAもまた共感し、奮い立たされるのです。

text : SEIN編集部 photo : Kitchen Minoru
lens : SIGMA 50mm F1.4 DG HSM|Art、SIGMA APO 70-200mm F2.8 EX DG OS HSM

「何より“ワクワク感”を失いたくなかった。一番大きな理由は、それでしょうか」
『バガボンド』『ドラゴン桜』などの人気漫画の担当編集者として勤務した出版社を退職し、“クリエイター・エージェント”という新たなビジネスを立ち上げた佐渡島庸平さん。彼は、その契機をそんな言葉で語り始めました。
「10年間、講談社という歴史ある会社で働き、先輩たちが築いてきた信用の上で多くの人々と出会わせてもらって、さまざまな経験を積むことができました。ただ、かつては印刷物の出版という形しかなかった作家の表現方法も、今では多種多様なメディアが生まれ、雑誌やコミック本に縛られる必要はなくなっています。僕は、そうしたたくさんの“その他”の可能性を探したいと思った。でも、大きな組織の中にいると、そういう新しいことに挑戦するワクワク感もスピード感も、損なわれていくような気がしたんです」
時代の転換期においては、時に組織の大きさが足かせとなることも少なくありません。
「どんな行為も、『これを作りたい』『これが大切だ』という理念や思いが先にあるものだと思うんですよ。けれど組織って、ある意味では、どんな理念があるかということより、その行為が組織の伝統や既存の常識に反していないかどうかを重視しがちになる。新しいことをやろうとすると、まずは前例があるかどうかとか、組織の先輩たちがどう考えるかとか、いわば『過去』に遡って承認をとらなければいけなくなる。僕は、僕の理念や行為が正しいのかどうかという承認を、作家さん本人からとりたかったし、理念をすぐ行為という形にしたかった。過去の人たちが時代に追いつくのを待っているのでは、遅すぎると思ったんです」
そうして佐渡島さんは、作家と直接契約し、創作をサポートするエージェント会社「コルク」を立ち上げます。スタッフはアルバイトも含めわずか3人。設立当初は、「2〜3年は仕事がないかもしれないね……」と話していたそうです。
「今まで出版社の人間だった僕が、今度は作家サイドに立つわけですから、彼らからの信頼を得るには時間がかかるだろうと。ところが、安野モヨコさんや小山宙哉さんなど、何人もの著名な作家さんが、『契約するよ』とすぐに賛同してくれたんです。ちょっと意外でもありましたが、それだけ、こういうシステムを彼らも必要としていたんだな、と感じました」
佐渡島さんが掲げるクリエイター・エージェントというビジネスとは、「作家と作品の価値を最大化すること」。言い換えればそれは、「読者が受ける感動を最大化すること」でもあります。

作家と出版社をつなぐ存在であっても、あくまで作家の側に立つのが佐渡島さんの仕事。最近では海外での出版も手がけている。

「ビジネスって、人の心を動かしたぶんだけ、お金が動くもののことだと思っているんです。むしろ、そうあるべきだと。たとえば宅配便なら、『すぐ届いて助かった!』という気持ちに対して料金を払い、レストランだったら、『あぁ、おいしかった』という喜びが代金とイコールになる」
一方で、コミックの累計発行部数が1,400万部を超えた『宇宙兄弟』を考えてみると、『人生が変わるほど感動した』とまで言う読者が払っている対価は、コミック1冊で560円、全巻揃えても15,000円程度なのだ、と佐渡島さん。
「彼らはそれで満足しているわけではなく、実は、自分のこの感動に見合う経験を、お金をかけてもいいから、もっともっと味わいたいと思っているんですよ。関連グッズを手に入れたいとか、『宇宙兄弟』的な体験ができるイベントに参加したいとか。もちろん、作品の世界は作家の頭の中にあり、作家はそれを漫画という方法で表現するわけですが、実はその世界を表現し、感動を拡大させる方法はたくさんあるんです。だから、誰よりも先に作品の感動を味わっている僕たちエージェントがその役を担う。アニメ、インターネット、電子メディア、グッズ、イベント……。作品と同時進行で感動を広げることが、作家にとっても読者にとっても大きな価値となると思います」
人は感動にこそ惜しみなく対価を払う。だから、作品の価値と感動を最大化し、産業規模を拡大することで、ビジネスとして成功させる。それが、佐渡島さんが立てた「コルク」という仮説です。
「こうして取材に来てくださるのは有り難いのですが、コルクという会社は、まだ、挑戦を表明しただけの段階です。いつか僕の立てた仮説が大成功したら、ぜひまた取材に来てください(笑)」
少し悪戯っぽくそう言った佐渡島さんの瞳には、紛れもない“ワクワク感”が、輝いていました。

「作品はすべて作家のもの。でも、誰よりその作品に感動している僕だからこそ、彼らをサポートできると信じています」

My favorite photographer | Yohei Sadoshima

上田義彦

言語化できないことを表現できる写真の魅力

「上田義彦さんとは奥様の桐島かれんさんを通じて知己を得たのですが、ご自宅で見せていただいた作品に、『シンプルな写真なのに、なんてすごいんだろう』と衝撃を受けました。逆に、すごすぎてどこがすごいのか分からない(笑)。他のスナップショットと何が違うのか、言語化できなくて。やっぱり、写真の本当の魅力とは言葉で語れないところにあるのだということを、改めて教えてくれた写真家です」(佐渡島庸平さん)

Yoshihiko Ueda/写真家・キュレーター 1957年兵庫県生まれ。1982年に写真家として独立。広告写真などを数多く手がけ、東京ADC賞最高賞、ニューヨークADC賞、カンヌグラフィック銀賞など数々の賞を国内外で受賞。2015年、30年以上にわたる写真家活動の集大成となる作品集『A Life with Camera』が発行となった。

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