Dignity

2019.07.17

2019年のアカデミー賞作品賞を受賞した映画『グリーンブック』は、黒人ピアニストと白人運転手の友情を描いた作品だ。本映画に関してさまざまな意見があることは承知しているが、映像の美しさも含めて見応えのある作品だった。全編を貫いていたテーマは“Dignity(尊厳)”であり、特に黒人ピアニストであるドン・シャーリーが、次のセリフを言い放つシーンは印象的だった。

“You never win with violence. You only win when you maintain your dignity.”
(暴力では決して勝つことはできない。尊厳を保ち続けたときのみ勝つことができる)

このシーンを見ていて、自分が若い頃から大好きでずっと聴いている、Deacon Blueの『Dignity』という曲を思い出した。

長年地道に働いてきて、特に裕福でもなく、取り立てて言うほどの功も名もない男が、実はコツコツとお金を貯めていて、いずれヨットを買って大海原を航海し、世界中を旅することを計画している。そしてそのヨットに「“Dignity(尊厳)”と名づけるつもりだ」と言う。実直で勤勉な男の日常と彼の思い描く夢が、まるで一編の小説のように語られる曲だ。叙情的なメロディーとも相まって、UK音楽史上に残る傑作だと思っている。

「尊厳」という言葉から想起することはもうひとつある。当社の会津工場で働く従業員のことだ。何気ない会話のなかにも、彼らが実に高い志と誇りを持ってものづくりに取り組んでいると知って驚かされることがしばしばある。会津の人々が自ら手掛けた製品や仕事について雄弁に語る機会はまずない。が、会津で生まれ、この地を出て大海原(実際には航空便で運ばれるので大空なのだが……)を渡って世界中の国々に届けられる製品を手にしていただいたとき、そこに少しでも彼らの“Dignity”を感じ取ってもらえるなら、同じSIGMAの人間としてこれ以上の喜びはない。

(文/山木和人 シグマ代表取締役社長)

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