会津工場をめぐるストーリー

EPISODE 6

光学素子加工第2部 部長石井 正俊

Masatoshi Ishii

photo: Kitchen Minoru
2018.09.12

入社から今年でちょうど20年、本社から会津工場勤務になってからは7年になります。こちらで結婚して、子どもは会津生まれ、会津育ち。現在は非球面レンズの生産に携わるレンズモールド部門と生産に関する部門を兼任しています。

もともとは大学で物理を専攻していて、卒業後は開発技術系に進みたいとは思っていたものの、レンズメーカー志望というわけではありませんでした。当時は就職氷河期で、物理の学生は就職口がなかったんですよ。それで同期生の中にはSEの道を選ぶ人も多かったのですが、私はコンピュータを使っているより物を触っているほうが好きだったので、それなら光学メーカーがいいと思い、SIGMAの採用試験を受けました。

入社時はまだSIGMAの本社が狛江市にあった頃で、故・山木前会長の面接を受けたことを覚えています。採用後は光学設計に配属となり、最初はカメラを担当することに。一眼レフのSA-7、SA-9のファインダーやオートフォーカス、AE、ストロボなどの光学系です。当時のSIGMAの技術系は光学、メカ、電子、ソフトの4部門に分かれていたんですが、SIGMAがデジタルカメラの開発を手がけることになった時、「画像処理はどこが担当するか」という話になりまして(笑)。部長同士があれやこれや議論していたところ、会長からの一声で光学が担当することに決まりました(笑)。

光学設計から画像処理開発へ、
東京から会津へ

それで当時光学に所属していた私がデジタル画像の開発を担当することになり、その頃協業するようになったFoveonとの窓口にもなりました。何度かFoveonにも出張し、SPPなどの開発に携わり、SD14の光学系と画像処理系はすべて担当しました。特殊なファインダーやストロボなど、カメラ内光学系と画像処理も担当していました。カメラではSD14、DP1、DP2、Merrillなどを担当しました。

Foveonセンサーは確かに素晴らしい技術であることは間違いないのですが、採用しているのはSIGMAだけですから、数々のメーカーが長い間切磋琢磨し技術開発して練り上げられているベイヤーセンサーに比べると、開発スピードは当然違ってくる。もちろん、開発側の事情でしかなく、お客様に対するクオリティの言い訳にはなりませんから、その分自分たちが頑張るしかないわけで、苦しいことは多々ありました。

そのうちに山木現社長からMTF測定器「A1」の開発を指示されました。当時使用していた一般的な測定器では、お客様からのレンズの不具合の訴えを正確に計測しきれませんでした。その理由が測定方法自体にあるのではないかということになりました。社長からは「これまでの測定器では検出できなかった不具合まで、お客様目線で評価できる測定器をつくってほしい」と言われまして。その具現化にはFoveonセンサーの応用が不可欠だったため、私が担当することになったわけです。

それで、4,600万画素 Foveonダイレクトイメージセンサーを応用したMTF測定器「A1」を独自に開発したのですが、「A1」だけつくって工場に渡すのではなく、現場で十分機能を発揮してもらうためには、やはり開発から携わって構造や機能を熟知している人間が必要だろうということで、私も「A1」と一緒に会津に移ることになりました。社長には「片道切符だよ」と言われました(笑)。私自身、「A1」や調芯のシステム開発などの生産技術開発が面白くなっていましたし、Foveonについても優秀な後輩に任せたいと思っていましたので、ちょうど良いタイミングでもありました。

本社から会津工場へ異動してきた社員の中には、工場のほうが楽しくて本社に帰りたくないと言い出す人が少なくありませんが、私も本社でコンピュータに向き合っているより、工場でいろいろなものに触りながら、みんなで「ああでもない、こうでもない」と考えているのは楽しいですね。もともとはケンカっ早いところがある人間ですが(笑)、会津に移ってからちょっと変わったのかもしれません。工場は物をつくるところですから、協力し合わなければ何にもできないんですよ。たとえケンカしていても、仕事で困ったことがあれば助け合うというのが、みんな自然に身についているんです。一人でとんがっている必要はなく、周りのみんなに協力してもらったほうが、仕事もすごくよく回る。それがこの工場の特性なのか、会津という土地が持つものなのか、または、その両方なのか、それは分かりませんが……。

それに、なんでも自分がやるのではなく、部下たちに任せてみよう、と思うようにもなりましたね。若い人たちを見ていると、上からガミガミ言わなくても自分で考えてしっかり成長していく力があるんだな、と感じるんですよね。今では本社の人から「石井さん、すごく丸くなった」なんて言われますよ(笑)。言われてみれば家でも、子どもは叱ったってしょうがないのかな、なんて考えて、どちらかというとやりたいようにやらせています。仕事での自分の変化が子育てにも影響しているのかもしれませんね。「片道切符」と言われてきた会津ですが、会津で頑張って、会津をめいっぱい楽しんでいるうち、本社のことも東京の暮らしも忘れてしまいました(笑)。

石井 正俊

光学素子加工第2部 部長

父親が仕事の関係で福島県会津若松市に赴任したことから、1974年に会津若松市で生まれる。2歳まで過ごし、その後埼玉県川越市へ移住。1998年入社、本社光学技術部に配属となる。会津工場生産技術部、レンズモールド部を経て、2018年より現職。

大口径の非球面レンズの場合には、1時間に5~6個ほどしか生産できないことも。製品自体の生産数にも直接影響するため、生産ライン全体の計画的な段取りが要求される。

Episode in Aizu

開発メカ系の知識と経験が豊富で、これまでの製造現場になかった理論的なアプローチで新しい風を吹き込み、生産性や品質の向上に貢献してくれています。会津に住んでいたのが2歳までとはいえ、会津人気質の芯の強さと頑固さを兼ね備えている、これからのSIGMAを担うリーダーです。(経営企画本部総務部長 渡部幸四郎)

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