2018.12.12

「真のユーザーベネフィット」のためにあらゆる可能性を追求していく

Photokina 2018でのLマウントアライアンス発表について

Photokina 2018で、SIGMAは撮影システムの中核をSAマウントからLマウントに移行すること、そしてライカカメラ社、パナソニック株式会社との協業「Lマウントアライアンス」について発表しました。
今回は、Lマウントシステム採用に至った経緯をたどりながら、変わりゆく環境への展望とともに、変わることのないSIGMAの開発理念、SIGMAを支えてくださるユーザーへの思いについて、代表取締役社長 山木和人が語ります。

photo:Kitchen Minoru

Photokina 2018でLマウントアライアンスを発表

2018年9月26日~29日にドイツ・ケルンで開催された世界最大の写真・映像産業のトレードショー「Photokina」。会期に合わせSIGMAは5本のレンズを発表し、展示ブースではいち早く新製品を体験しようと連日多くの来場者が訪れました。
そして、今回SIGMAにとってもこれまでになく大きな発表となったのが、ライカカメラ社およびパナソニック株式会社との協業を宣言する「Lマウントアライアンス」でした。

Lマウントアライアンスとは、これまで独自にカメラを製造してきた3つの企業が、Lマウントという共通のプラットフォームを持つことで、メーカーの垣根を越えた自由で拡張性のある撮影システムを実現しようという試みです。
Photokina会期前日の9月25日に開催したプレスカンファレンスで、3社によるLマウントアライアンスについての公式な発表が行われました。

3社合同の記者会見の様子。

SIGMAからの6つの発表

同日の夜、SIGMAが個別に主催したプレスカンファレンスで、新製品についてのプレゼンテーションと、Lマウントアライアンスに関するSIGMAの方針の発表を、メディアと関係者に向け改めて行いました。

SIGMA主催のプレスカンファレンス。

Lマウントアライアンスに関して、SIGMAから発表したのは以下の6つの方針でした。

  • Lマウントシステムを採用したFoveonフルサイズセンサーカメラを2019年に発表。
  • 今後SIGMAで開発するすべてのレンズ交換式カメラでLマウントシステムを採用し、新規のSAマウントカメラの開発は行わない予定。
  • 現在発売中、および今後発表される一眼レフ用交換レンズにおいては、当面はSAマウントを継続して開発・製造・販売し、ラインアップも維持。
  • SIGMA SAマウントレンズおよびCANON EFマウントレンズをLマウントに変換する、SIGMA製レンズ専用のマウントコンバーターを2019年に発表。
  • Lマウントレンズは2019年より順次発表。
  • Lマウントへのマウント交換サービスを2019年に開始する予定。
Lマウントのシステム概念図。

SAマウントから新しいショートフランジバックマウントへ

SIGMAにとって大きな決断となった、SAマウントからの転換。そのいきさつについて、山木は次のように述べます。

「まず、当社のカメラをご使用いただいているお客様からの『35㎜版フルサイズカメラをFoveonセンサーで作ってほしい』という、かねてからのご要望に応える形でカメラの企画検討がスタートしました。そこから『今、最適なカメラとは?』を考えるにあたり、カメラ自体の構造やマウントを含めたシステム全体の検討へ進んだのが始まりですね。
 これまでSIGMA製カメラの最大のセンサーサイズは、sd Quattro Hに搭載されているAPS-Hサイズでした。この機種も仕組みとしては構造にミラーがなく、ライブビューファインダーを採用したミラーレスカメラではあったんです。ただ、SAマウントを採用したことで、ショートフランジバックがもたらす光学設計の優位性や小型化といったミラーレス機の利点が活かしきれてはいませんでした。
 sd Quattroシリーズを企画した時点では、まだミラーレスが今ほど市民権を得ている状況ではなかったこともあり、既存のSAマウントレンズをお使いのお客様への利便性という点を優先させましたが、レフレックスからミラーレスへの転換期を迎えている今、システム根本の見直し、つまりショートフランジバックを持つ新しいマウントについて議論することは不可避でした」

「お客様にとっての本当のメリットとは何か」

「マウントを一新するという決断にあたっては、やはり葛藤がありましたね。これまでカメラ開発は当社の理想を体現する事業として取り組んできましたし、SIGMAのカメラをご愛用いただいている方々はそれを最も理解して応援してくださる存在だと考えていますから。ただ、社内で議論を重ねるうちに、思い切って新しいシステムに舵を切ることが、結果的には10年、20年後にも可能性のあるシステムを提供できる、ひいてはお客様にとってのメリットに繋がるはずだ、という結論に行きついたんです。
 この議論を通して、特にシステムの拡張性と将来性に重きを置いた“ユーザー本位の製品開発”という考え方は、より深まっていったように感じます」

「そういった背景もあり、既存のSAマウントレンズの資産を活用していただくための方法をご用意することは、新しいカメラの開発と同じくらい重要な使命だと考えています。
 方法のひとつとして、SAマウントレンズを新しいマウントに変換するマウントコンバーターの開発を決定しています。MOUNT CONVERTER MC-11を開発した経験と、マウントコンバーター自体が世間的にも急速に受け入れられているという状況があって、このシステムもおそらくご理解いただけるだろうと考えたからです。
 その他にも、当社が以前より取り組んでいるマウント交換サービスなど、SAマウントユーザーのお客様の資産をなるべく少ない負担で新システムに移行できるよう、できる限りのサポートを準備していく考えです」

SAマウントユーザーのお声が後押し

「新マウント採用の後押しとなったのは技術的な理由だけではなく、SAマウントユーザーのお客様自身から、sd Quattroシリーズの発表に際して『これももうショートフランジバックでいいんじゃないの』というお声をいただいていたこともありました。もちろん全員ではありませんが、『sd Quattroをショートフランジバックにして、これまでのSAマウントレンズにはマウントコンバーターを利用して使っていきたい』というご意見もいただいていたんです。
 難しい選択でしたが、お客様のご理解もある程度いただけるのではないかという背景と、既存のSAマウントレンズの活用方法にいくつか見通しが立てられそうなこと、そして当社の価値観や基本方針も踏まえ、総合的に判断して選択していったというところですね」

SAマウントカメラ・レンズをご愛用の皆さまへ
-プレスカンファレンスと同時に発信されたSIGMAからお客様へのメッセージ-

アライアンス締結に至るまで

「当社が新しいマウントの開発へ舵を切ろうとした頃、パナソニックさんから『実はフルサイズミラーレスカメラの開発を検討している』というお話があったんです。フルサイズ機開発に向け、新しいマウントを採用しなければならない。そのタイミングで、一緒にアライアンスを組んでやりませんか、というお声がけをいただきました。
 当初、正直少し懸念はありました。当時はやはり当社独自の新しいマウントも検討していて、協業すればその内容も全部破棄することになってしまうので、会社への影響は少なくありません。実を言うと、私個人としてはどちらかと言えば慎重派というか、これまでどおり、他社がやらないことを独自の路線で進めていきたいという考えがあったんです。
 ただ、先ほど申し上げたとおり、ユーザー本位の製品開発という観点から言えば、拡張性のあるシステムの方が明らかにお客様のメリットが大きい。そういった考えからご提案を受けることになったんです。
 パナソニックさんとの技術検討が始まった頃、パナソニックさんからライカさんも参入するというお話をいただき、より選択肢が増え、より魅力的な協業になるだろう、という印象を持ちましたね」

『Lマウント採用』までの道のり

「この“メーカーの垣根を越える”という考えを受け入れた背景には、2017年に発表・発売したMC-11やシネレンズの経験も影響していたと思います。MC-11はレンズマウントを変換してボディ選択の自由度を上げようという考え方でしたし、シネマ業界にはカメラ、レンズ、アクセサリーを全くバラバラのメーカーから自分で選択して撮影機材を構成するという考えが当たり前にありました。
 メーカーが自身だけのシステムでユーザーを囲い込むのではなく、お客様が自由に機材を選択できるべきだという視点と、システムの拡張性をお客様の重要なメリットとして捉えるという考え方は、私個人含め、社内全体の考え方が昔と大きく変わっていたからこそ生まれたものだと思います」

「アライアンスでの共通マウントについては、技術検討当初は全く新しいものを設計する方針でスタートしましたが、議論を重ねていく中で、ライカさんから『ライカSL(2015)』などに採用されているLマウントを使わないかという提案がありました。このLマウントは技術的にみると、フランジバックの長さやマウント径といった設計上の要素からソフト面での自由度まで、高い技術的優位性があるんです。“完全新規のマウントを作りたい”とあまり細かいことにこだわるよりは、既存のLマウントを基盤に一緒に協力していく方が、ユーザーメリットの面でも技術的な面でも優れているだろう、と意見がまとまり、具体的な協業の準備がスタートしました」

三社三様の魅力でユーザーに選択肢を

「私がこのアライアンスについて面白いと感じているポイントは、各メーカーそれぞれ目指す方向が違うというところです。
 例えばパナソニックさんは日本を代表する大手メーカーであると同時に、世界初のミラーレスカメラを開発されるなど、新しい技術、新しい可能性を求めて柔軟かつ果敢に取り組んでおられますし、ライカさんは、カメラの歴史がほとんどそのまま会社の歴史であると言っても過言ではないほど、伝統的なカメラメーカーとして、永年、独自の哲学を基盤にものづくりを続けてきたというバックグラウンドを持っている。
 当社は当社で、カメラもレンズもいつも他社とは違う独自の製品を目指すという、2社とはまた違ったアプローチで製品開発を行っています。当社の事業規模からしても、速いサイクルであらゆるターゲットに対して網羅的にカメラを開発することは容易ではありませんが、こうしたアライアンスによって、お客様の選択の自由度を拡げることができ、柔軟な生産体制を活かしたより独創的な、SIGMAらしい製品に集中できるはずです。
 これほどに企業背景や目指す方向性、打ち出すカメラのコンセプトに違いのある3社が集まれば、似たような会社同士で組んで競争するよりもずっと広がりがある面白いアライアンスになるのではないかと、私自身もとても楽しみにしています」

“これまで”と“これから”を両方大事に

「特色ある2社とのアライアンスの中で、SIGMAの担う役割について考えると、ひとつはレンズラインアップによるシステム全体の拡充。もうひとつは、カメラボディについて他社が絶対にやらないような領域をきちっと押さえていくということだと思います。
 今までに無かったようなカメラを当社が作ることで、システム全体をユニークかつリッチなものにしていくというところは、当社が求められる部分だろうと意識していますね」

「このアライアンスによって、これまでSIGMAのカメラを使ったことのない新しいユーザーにとっても魅力が生まれるのではないかと考えています。例えばFoveonセンサーに興味はあっても、既に所有しているレンズシステムに加えて、SAマウントで新たにレンズ一式を揃えるのはやはり高いハードルだったと思うのです。そこにメーカーを超えた拡張性を持つLマウントを採用することで、マウントが障壁となって試せなかったというお客様に対してひとつのアピールになると思うんです」

変化を恐れず挑戦し続ける

「業界の動向に関しては、特にお客様の機材の使い方や撮り方に変化を感じています。ニーズに合わせて機材もどんどん進化してできることが変わってきていて、それをユーザーが受けて更に使い方が変わって……と、今に限らずカメラの歴史はそのサイクルだと思います。テクノロジーもお客様も変わっていく中で、一眼レフからミラーレスへというこの大転換期で何が起こるかわからないという意味では、いろんな可能性を追求していきたいなと思いますし、できるのだろうなという実感はありますね」

「2012年にスタートした包括的キャンペーン“SIGMA GLOBAL VISION”もそうですが、目指すべき地点に向かって作り上げ、一定の認知を得たとしても、そこに安住することなく、ある程度の周期で自らを刷新していかないと新しい価値を生み出し続けることはできないと思っています。
 『写真や映像を愛する方々に本当に価値を感じてもらえるような驚きと喜びのあるものづくり』。SIGMAが今後も変わることなく大事にしていくのはこの一点です。一方で、そのためにはあらゆる可能性を排除せずに探究し続ける姿勢も大事にしたいところです。フレキシブルかつシャープに、その時代に求められている価値の中から当社にしかできないことを提案できる、変化を恐れない企業を目指していければと思います」

Share on social media