アメリカ・サンノゼに本社を置くFoveon,Inc.。1997年に設立、2008年にSIGMAの100%子会社に。

Winter/2015-2016

Foveon、そしてSIGMAの“Meme”

The Meme of Foveon, and SIGMA

世界初・唯一の垂直色分離方式のセンサー「Foveon」。シリコンバレーの小さなベンチャー企業だったFoveon, Inc.が、独自のセンサー開発を志し、技術を確立してSIGMAと出会い、SIGMAのコアテクノロジーのアイコンとなるまでの歩みを、Foveon創立メンバーの一人で現在もバイスプレジデントを務めるルディ・グトシュにインタビューしました。
Foveon初期の技術者、そしてSIGMAにも受け継がれる「遺伝子」とは。

text:SEIN編集部

「色と光への最高感度」から命名

Foveon X3ダイレクトイメージセンサーの発明は、カリフォルニア工科大学教授だったカーバー・ミードの研究業績に端を発します。物理学・情報工学の権威として多くの基礎研究を手がけてきたミードは、人間のさまざまな能力を半導体でモデリングする研究にも力を注いでいました。やがて、人間の思考や知覚のパターンをシミュレートするニューラルネットワーク研究へ発展し、その一環としてイメージセンサーの研究を開始します。創業メンバーの一人であり、Foveonセンサー開発の経緯と特長をよく知るルディ・グトシュは、当時をこう振り返ります。

「ミードの研究は、米国シリコンバレー地域の有力企業、Synaptics社とNational Semiconductor 社の支援のもとで1997年8月に起業したベンチャーです。人間の網膜の中心にある、視力と色に対する感度が最も高い部位『網膜中心(Fovea Centralis)』という解剖学用語にちなんだ社名を採用したことからも、Foveon, Inc. が設立当初から高度な視覚機能を強く意識した、革新的な高性能イメージセンサーの開発を志向していたチームだったことが分かると思います」

写真家にふさわしい独創的なセンサーを

Foveonには当初から、経験豊富な画像関連分野の専門家であり、同時に熱心な写真愛好家でもあった優秀な技術者が集まっていました。

「当時すでに、長い時間をかけて開発され、低ノイズで広いダイナミックレンジを持つなど、技術的にも洗練されていたCCDセンサーは存在していました。その一方で、色情報を取り込むためのカラーフィルターアレイと被写体が干渉し合って生じる偽色を、ローパスフィルターで低減させるなど、従来式センサーの画像生成システムに疑問を感じていた技術者も少なくありませんでした。Foveonに集う技術者チームにとって『素性の良い光と色の情報を取り込んで、質の良いデジタル画像へ変換することができる独自のCMOSセンサー』の開発は、大きな目標だったわけです」

「最初のプロトタイプが誕生したのは、創業から約1年半後だったと思います。独自開発の大型モノクロームCMOSセンサー3枚をカメラ内に配置し、プリズムで分散させた光線を、それぞれ赤(R)緑(G)青(B)のカラーフィルターを通してイメージセンサーに結像させる、『3板式プリズムカメラ』と呼ばれる方式のものでした。しかし、3板式プリズムカメラの製造は非常にコストがかかりました。3枚のイメージセンサー、高価な色分離プリズム、イメージセンサーを3つのプリズム出射面に一直線に固定させる高度な技術などが必須だったからです。コストパフォーマンスが良く、かつFoveonが追求する画質基準にかなうセンサーを実現するには、まったく新しい技術を確立する必要がありました」

(上)プリズム分光の様子。 (下)Foveon開発最初期のプロトタイプ。プリズムで分散させた光線を三原色のフィルターを通してイメージセンサーに結像させる「3板式プリズムカメラ」方式。

1ピクセルで光の三原色を捉える

「しかしまた、我々にはこの段階ですぐに、『これはまさに、プロ向け機材の市場を狙える、写真家のニーズに応えうるユニークな技術だ』と分かりました。それで、3板式プリズムカメラの実用化は諦めたものの、開発をリードしていたディック・メリル*1が初期段階で権利化していた、『一つのピクセルロケーションでRGB(光の三原色)をすべて捉えられるデバイス』の特許に着目したのです」

「彼は大学を卒業後、IBM社のThomas J. Watson研究所、National Semiconductor社で半導体分野の先端研究に従事するなど、豊富な経験を持った技術者でした。同時に、彼自身が芸術的才能と情熱にあふれた写真愛好家だったため、Foveon参加後は芸術表現にふさわしい性能を求めてイメージセンサー開発に情熱を注ぎ、フィールドテストのたびに米国西部を頻繁に駆け回っていましたね」

ユニークな経歴と、多彩な才能に恵まれたメリル。最先端技術と芸術性を統合させるという前例のない開発において、彼の創造的な発想と姿勢は、革新的なフルカラーイメージセンサー技術確立にとって不可欠な要素であった、と誰もが言います。

「試験機材を満載したミニバンで、夜明けや夕暮れの「完璧な光」を求めてハイウェイを駆け回るメリルは、文字通り「名物技術者」であり、我々にとって今なお最も大切である、“アーティストのためのカメラ”というコンセプトの権化のような人でした」

開発直後のFoveon X3イメージセンサーが捉えた、創業メンバーの一人、ディック・ライアン(Dick Lyon)。画像処理エンジン開発におけるもう一人の立役者。
SD14で写真を撮る故・ディック・メリル(Dick Merrill/1949-2008、ディック・ライアン撮影)。

Foveon X3 ダイレクトイメージセンサー、誕生

メリルの発明した「デバイス」は確かに一つのピクセルロケーションでRGBすべての色を取り込めたものの、その光情報からいかに求めるクオリティの画像を生成するか、という技術課題を残したままでした。

「そこに解決策を提示したのが、Foveonの開発チーフだった『もう一人のディック』、ディック・ライアン*2です。信号処理技術のエキスパートである彼もまた、熱心な写真愛好家であったことから、メリルの手がけていた技術に強い興味を持ちました。シリコンの物理的特性として、表面付近で短い波長の光を吸収し、深さが増すに従って徐々に波長の長い光を吸収することは先進的な半導体メーカーの間では既知の事実でしたが、そこから写真を生成するにふさわしい画像信号に変換するためには、さらなる技術革新が必要でした」

「彼は、シリコンの光吸収特性やRGB各波長の分光特性に関する研究を行い、最終的に各ピクセルロケーション内の特定の深度で3つのフォトダイオードによって色を捉える方法を理論的に導き出しました。垂直方向の色分離方式を確立すれば、写真家の高度な要求を満たす色再現が実現できるはずだ、と確信したのです。シリコンの物性に着目した垂直方向の活用をイメージセンサーに応用し、RGBを3層構造(2048×2048ピクセル×3層)でキャプチャする『世界初の3層CMOSイメージセンサー』のテストに漕ぎつけた瞬間は、誰もが緊張と不安でいっぱいだったことを覚えています」

「ライアンがRAW画像データを画像処理パイプラインに通した時、チームメンバーは皆驚きの声を上げました。3枚分のセンサーでようやく得られた、あのプリズムカメラと同じクオリティの色を、ちっぽけな3層構造のチップ1枚で再現したのですから。これが、『Foveon X3 ダイレクトイメージセンサー』がこの世に誕生した瞬間でした」

「Foveonの『画質への徹底したこだわりと誇り』がSIGMAとFoveonの最大の共有財産」だというルディ・グトッシュ。

FoveonとSIGMAの邂逅

「開発チームは急ぎいくつかの試作機を製作しました。メリルは休暇中でもカメラを手放さず、さまざまなロケーションでテストを繰り返しましたが、テストカメラ自体の性能は申し分なく、色再現性やダイナミックレンジの広さにも確信を深めました。が、この技術を実用化するためには、哲学とビジョンを共有でき、信念を持って生産に臨めるパートナーが不可欠でした」

「ミードは、センサー技術が確立するかなり前から、この技術を買ってくれる企業を探していました。2000年9月、Foveonは独・ケルンで隔年開催されるPhotokinaに出展、「プロトタイプ」(プリズムカメラ)を展示していました。SIGMAの創業者で、当時の会長だった故・山木道広氏と、この時、会場で初めて出会ったのです」

「当時、SIGMAはすでに銀塩フィルム用のカメラは製造していましたが、山木氏は、当時のフォトジャーナリズム界のハイエンドカメラに採用されていたデジタルキャプチャ技術が一般向けカメラの市場でも主流になること、早晩フィルムに取って代わることを確信していました。そして、センサー開発やレンズの光学性能における競争も激化し、その成否が光学機器メーカーのこの先の命運を分けるであろうことも予測しており、今後SIGMAはどの道を進むべきか模索していました」

「この年のPhotokinaでFoveonはデモサンプルを展示していなかったにもかかわらず、山木氏は、この技術に他社とは一線を画す、圧倒的な画像品質を生み出せる独創性と可能性を見出し、強い関心を寄せていました。まもなく単身Foveonを訪ねた彼は、試作品のFoveon X3イメージセンサーで自らを撮影し、その画像を目にしてすぐにFoveon搭載のカメラ製造を決断したのでした」

Foveon X3 ダイレクトイメージセンサーを初搭載したSIGMAのデジタル一眼レフカメラ、SIGMA SD9。
従来型センサーとまったく構造原理が違うFoveon。垂直方向に光を取り込むフルカラーキャプチャシステムは、フィルムライクな取り込みを可能にする。RGB全色を3層で取り込むFoveon X3イメージセンサー(左)。右は一般的なカラーフィルム。

「Foveon 100%子会社化」の決意

2008年。SIGMAはついに、Foveon X3ダイレクトイメージセンサーとその母体であるFoveon,Inc.を100%子会社としました。業界最高水準の品質の製品を提供することに徹底してこだわり続け、ほぼ完全内製化してきたSIGMAにとって、独自センサーまで自社で開発することは、総合光学機器メーカーとしての不退転の決意の証でした。何よりも、写真哲学と事業理念を共有しながらともに歩み挑んできたなかで、互いに分かち難い存在となっていたSIGMAとFoveonの必定の道筋だったといえます。

未知数ながらも圧倒的な解像感、階調や色の豊かさと、確かな実体感を持つFoveonの、しっかりとした「ボディ」を感じさせる像質。地球上にある光をそのまま取り込んだ本当の高画質。Foveonの創立から約20年、そしてSIGMAと協働するようになって約15年にわたり、APS-Cサイズながら、中判クラスの画質を提供できるFoveonは、写真を心から愛する人々に強い印象を刻んできました。

FoveonとSIGMAのMemeを継ぐ進化

「Foveonでしか表現できない画がある。Foveonで撮ってみたいと思わせる力がある。優れた色再現。圧倒的に豊かな階調。センサー原理由来のダイナミックレンジの広さ。どこまでも破綻せずに粘れる「フィルムライク」な画像データ特性。そこに在るものをいかに的確に写し取るかという他のカメラとは異なり、撮る人の心象風景にどこまでも近づけて再現できる懐の深さが、Foveonの本領だといえます」

「Foveonが、表現を追求する多くの『目利き』を魅了し続けるのは、フィルムの感色層のような縦方向3層の構造を持つFoveonの最大の特長である、解像感の高さによる豊かなディテールでしょう。Foveonセンサーの分光特性チャートを見ると、たとえば赤・青・緑の各波長はお互いに帯域が重複していて、どの帯域も十分な量の情報を含んでいるのが分かります。単純な『色』で分けられない中間域の情報まで持っているこの “Panchromatic”な特性こそが、どのような再現の要求にも応えうるFoveon独特の圧倒的な画像力と、Foveonそのものの源となっています」

SIGMAのアイコン、Foveonは、SD9 / SD10(第1世代)、SD14 / SD15(第2世代)を経て、革新的な技術力と情熱的な創造性の体現者、ディック・メリルの名を冠した第3世代“Merrill”へ。そして“アーティストのためのカメラ”というコンセプトをより先鋭化させた第4世代“Quattro”へと、今も進化の途上にあります。

「センサー原理に拠るリッチで質の良い“Panchromatic”な画像特性と、高解像ゆえの豊かなディテールと臨場感を表す“Foveon Look(らしさ)”はそのままに、解像度を上げながらもデータ量の膨張を抑え、より合理的な処理が行えるよう大幅な改良を加えて進化を続けているQuattroセンサーには、FoveonとSIGMAのMeme(思想的遺伝子)が色濃く受け継がれているのです」

ルディ・グトッシュ

Foveon創業メンバーの一人であり、現バイスプレジデント。ロチェスター工科大学卒業後、コマーシャルフォトの世界へ。中判・大判カメラの画質研究の知識と経験を活かしFoveonに参加。現在はパテントの管理やSPPの開発などにも従事。

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