Autumn/2014

SIGMAの「GLOBAL VISION」とは

Universal rather than global.

2012年のSIGMA GLOBAL VISION発表から2年。よりよい写真機材の開発と提供を目指してきたSIGMAの歩みと、2013年に設立した子会社、SIGMA Chinaの模様を通した「SIGMAの現在」をお伝えします。

text : SEIN 編集部 photo : 賴怡學/温颖伟/周振宇/秦国栋(微圖)

「SIGMA GLOBAL VISION」の節目の年に

2014年は2年に一度ドイツの主要都市・ケルンで開催される「Photokina」の年でした。イメージング関連では世界最大の見本市となる「Photokina」は、SIGMAにとっても重要なイベントであり、現在展開中の新製品ラインに代表される「SIGMA GLOBAL VISION」を公式発表した前回のPhotokina 2012から、ちょうど一周回した節目にあたります。

Art、Sports、Contemporaryという3つのライン設定。SIGMAのコア技術であるFoveonセンサーで全数検査された、各コンセプトにふさわしい最高レベルの光学性能。唯一の生産拠点・会津工場での「Made in Japan」のものづくり。よりパーソナルな仕様で長く愛用していただくための、合焦位置調整や対応マウント変更など、オプションメニューの充実。

システムカメラにとって最も大切な要素である交換レンズを撮り手本位で見直し、新しいしくみとして提案したSGVでしたが、それまでの慣例をがらりと変える試みであったことから、果たして実際に市場に受け入れられるのか、不安があったことも事実です。しかし「あるべき写真機材とは」だけを真摯に追求し、一つずつ製品化してきたことで、予想以上に多くの方々から支持していただけるようになりました。

SIGMA GLOBAL VISIONには全14機種のレンズ(2014年10月現在)だけでなく、SIGMAを代表する単焦点レンズ一体型カメラ・DPシリーズの新世代版、dp Quattroシリーズ3機種も含まれており、新しい製品群とともに、企業姿勢そのものを示すコンセプトとなっています。

「Photokina 2014」では、新製品を含むSGVレンズ14機種と、専用アクセサリーを伴うdpシリーズ3機種をラインアップ。 シンボルカラーのモノトーンで統一された「SIGMA GLOBAL VISION」コーナーにも、熱心なSIGMAユーザーや来場者が詰めかけた。

「お国柄」ではなく価値観でつながる

SIGMAはすべての自社製品を単一の仕様・名称、世界共通で提供してきました。70以上の国・地域の販売拠点を介してSIGMA GLOBAL VISIONを展開していることで、ある傾向が顕著になっていると代表取締役社長の山木和人は言います。

「市場の地域差について尋ねられることがあるのですが、国や地域の間で志向性に大きな開きはないという実感を持っています。確かに市場規模の差や、好まれる写真や需要の多い機材ジャンルなどに多少の“お国柄”はあるでしょう。しかしカメラやレンズの世界に関して言えば、本質性能への要求水準や、上質さへの感度という点では、ニューヨークであれパリであれ、あるいはバンコクでも東京でもそう変わらないと思っています。より感性に訴えるもの、実質のあるものを解し、求める方々というのは必ず一定層いて、自らの審理眼に従ってこれはというモノを選んでくださっていると思うんです。当社の場合、同じ製品を、同じタイミングで、異なる市場へ直接展開しているからこそ、そうした傾向を如実に感じられるのかもしれませんね」

実際、Artラインを中心とする新しいレンズは特に、国内外を問わず、これまでSIGMA製品のユーザーではなかった写真愛好家からも高く評価されていますが、とりわけ写真表現にじっくり向き合う“シリアス・フォトグラファー”と呼ばれる方々の琴線に触れているようです。

そうした模様を受けて、SIGMAがどのように受けとめられているのかを実際に見聞きしたいと、今回、最もダイナミックな市場の一つである中国を訪ねてみました。

●写真上:2014年9月5〜7日の3日間、上海市中心部の上海展覧センターにて初開催されたアジア最大規模の国際フォトフェア「PHOTO SHANGHAI」。世界中の主要なギャラリー、エージェンシーなど40社以上が出展。会場内では展覧、商談、イベントが行われ、一般公開日にはアートフォト観覧の一般来場者で大混雑した。 ●写真下左:SIGMA Chinaのオフィスもある「Red Town(紅坊国際文化芸術社区)」。古い工場跡地をリノベーションしたテナントビルに独立系アパレル、スタジオなどが並ぶ感度の高いエリア。 ●写真下中:上海を代表するアートスポット「Shanghai Art District M50」。独立系のギャラリー、スタジオ、クリエイティブサービス・オフィス、カフェなどが集まる。 ●写真下右:上海随一の観光地、「Bund(外灘)」。19世紀後半〜20世紀初頭にかけて租界(外国人居留地)が置かれた異国情緒あるエリアで、近年ではラグジュアリーショップも立ち並ぶ人気スポットに。

"Respect every single photographer”

「2012年のSIGMA GLOBAL VISION開始と並んで子会社・SIGMA Chinaの設立準備も進めていました。とかく市場の規模や特殊性だけで語られがちな中国ですが、『本当に優れた製品は普遍的な価値を持つ』という我々の信念に照らせば、国や地域にかかわらず、解る方には解っていただける、という確信のようなものはありました。実際、2013年の現地法人設立以降、ArtラインとDP Merrillシリーズは大きな反響をいただいています。知名度や流通インフラなどではまだこれからの部分も多いのですが、SIGMA Chinaによる誠実なカスタマーサービスも含め、製品とサービスへの信頼、独自製品を提供し続ける企業姿勢への期待など、他の国と変わらない共通認識を持ってくださっていると感じます。当社の基本思想に“We always respect every single photographer” という考え方があります。お使いの機材の種類や数、志向性、国や社会背景にかかわらず、写真を愛し、SIGMAに関心を持ってくださるすべての方に、よりよい、普遍的な価値を持った製品を提供し続ける存在でありたいのです。私どものこの考えに共感してくださる方々に支持していただけているなら、とても嬉しいですね」(山木)

中国有数のアートフォト・コレクターであり、専門デジタルメディア最大手の「シーテック」オーナーとして、中国の写真事情とカメラユーザーの動向に精通している李 沢宇(Long Lee)さんも次のように分析します。

「私の知る限り、今のところSIGMAは中国においてArtライン、DP Merrill/dp Quattroシリーズによって“差別化できるハイエンド機材”という認知に成功していると思いますよ。ボリュームは大きくありませんが、写真の技術とリテラシー、機材へのこだわりを持つ層に、圧倒的な高画質と工業製品としての上質さ、強烈な個性によって特別視されていることが強みです。今後は中国のフォトシーンの成熟とともに、よりアーティ スティックな存在となれれば、なおよいでしょう」

鋭敏に反応し、長いスパンで見る

2013年8月に設立されたSIGMA Chinaは子会社の中で最も新しい会社です。上海市内のアートゾーン「紅坊」にあるオフィスには、30代の若いスタッフ十数名が勤務。北京にも拠点を構えています。このSIGMA Chinaを率いる王 昊(Wang Hao)も弱冠31歳。(2014年現在) 法人設立と同時に総経理(ゼネラルマネージャー)に就任し、中国におけるSIGMAブランドの確立と拡販の指揮をとっています。中国の大学で熱力学を専攻し、日本・仙台の東北大学大学院に留学。その後経営コンサルティング会社でのコンサルタントとしての勤務を経てSIGMAの一員となりました。異色のバックグラウンドを持ち、グループで最も若い子会社の、最も若いゼネラルマネージャーとなった彼の目に、SIGMAはどのように映ったのでしょうか。

「職業柄、多くの日本企業と接する機会がありましたから、日本的な経営手法・哲学には一定深度の理解はある方だと思うのですが、SIGMAは私が知っているどの日本企業とも異質でした。よく国際市場における日本企業の競争力の低さが指摘されますが、その理由は概ね、経営上の意思決定の遅さであったり、進出先の市場動向に敏感でなく、子会社が現地化されていないところにあると考えています。SIGMAにもよい意味での"ウェットな側面はありましたが、一方では、会社としての気質・体質はそれとは違っていたのです。市場の潮流への感度が高く、意思決定も速い。現地現物主義が徹底しており、ある意味アグレッシブともいえるほど決断とアクションが敏速なのです。おそらく成果を測るスパンが長いから思い切ったアクションができるのでしょうが、新鮮な驚きを感じました」

2014年9月6日〜8日、「紅坊」内でdp2 Quattroのイベントを開催。プレス発表と体験会、コアユーザーによる写真展とセミナーはメディアでも配信。

「Wow! Experience」というミッション

その彼をさらに驚かせたのが、ゼネラルマネージャーへのオファーでした。

「山木社長から『うちでやってみないか』と直接打診された時は本当に驚きました。その時私はまだ29歳で、光学機器製造業の現地法人経営実務についてはまったく経験がありませんでしたし、そもそも業界自体が非常に専門的で難しいと感じていたからです。でも、そういう自分を抜擢してくれたことは本当に光栄だったし、チャレンジすべきだと思いました」

「もう一つは、SIGMAが中国でも果たそうとしていた『唯一無二の製品、誠実なサービス、感動の顧客体験を通して新しい価値を提供できるベストブランドに』という基本路線が正しいと感じたからです。それまで多くの企業が生産メリットや市場性を目的に中国に進出してきました。昨今では市場成長が鈍化しているといわれるものの、まだまだいろいろな意味で大きな可能性があります。そういう中国にあって、大量生産・販売によるコモディティ化路線ではなく、企業哲学、事業姿勢、製品・サービスのすべてにおいて本質的な価値を追求し、驚きと感動を与えるビジネススタイルを貫きたいと考えている点に共感したのです」

SIGMA Chinaオフィスに併設されたショールームでは主要製品の展示、タッチ&トライ、修理受付などを行っている。

世界の、多様な、個々のお客さまとともに

「ある著名なリポートによれば、『中国は国家としては一つだが、実態は14の異なる国の集合体と考えたほうがよい』とされている。私もこれには同意します。つまり一般化や単純化ができないくらい多様な文化的・社会的背景を持った市場だということ。でも、これはもはや中国だけでなく、どの国でも同じでしょう? 人々の要求はより複雑になり、属性情報だけでは類型化できなくなっています。そんな時だからこそ、製品やサービスの送り主は自分たちの価値観やメッセージを明快にする必要がある。そうすれば自ずと私たちの呼びかけに応えてくださる相手の姿も見えやすくなりますから」

「SIGMAにおけるグローバルとは、すべてをおしなべて単一の尺度で呑み込む『汎』というよりはむしろ、価値観を共有してくださる世界中の、多様な、インディペンデントな方々との関係の『幅』を表す概念なのだろうと思っています。 これも“SIGMA always respects every single customer”ということですよね」

王 昊

大学卒業後、同郷で敬愛する魯迅と同じ東北大学大学院に留学。専攻とは違う「日々の変化」に身を置くべく経営コンサルタントに。30歳でSIGMA Chinaのゼネラルマネージャーに就任。目下のブームは「写真」。双子の女の子の父でもある。

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