SIGMA meets SEEKERS vol.5

Autumn/2015

[その先を追う表現者たち]

Akira Minagawa

ずっと共に在って、着るたびに
歓びの得られるブランドに育てていきたい

  • 皆川 明さんファッション デザイナー

オリジナルの図案による生地と物語性豊かなデザインで、国内外で高い評価を受ける「ミナ ペルホネン」のデザイナー、皆川 明さん。
ファッションデザイナーとして、経営者として、創造と成長をどのように捉えているのか、お聞きしました。

text : SEIN編集部 photo : Satoshi Nagare
lens : SIGMA 50mm F1.4 DG HSM|Art、SIGMA APO 70-200mm F2.8 EX DG OS HSM

皆川明さんが1995年に「minä(ミナ)」を設立してから20年。2003年から名を改めた「minä per honen(ミナ ペルホネン)」は、今や国内外で高い支持を得る人気ファッションブランドです。
「20年といっても僕としては、やっと基礎が整ったかな、建築でいうとまだ上棟式にもならないかな、という感じですね。もともと、僕一人の持ち時間では、自分が思い描くミナにはならないと考えていたんです。だから、僕はまず基礎をつくり、理念を社内外に伝えて、次の人たちにできるだけ良い状態でミナを渡そうと。そもそも“ミナ”とは、自分という意味のフィンランド語なんですよ。ミナ ペルホネンで働く人たちが、常に“自分”の仕事をしてほしいという思いをこめています」
皆川さんがしばしば口にする“理念”という言葉。その本質は、2014年にしたためた『つくりかた』という一文に凝縮されています。

〈 技術を革新して 手を鍛える/生活を直視して 空想にふける/(中略)信念を曲げず 自在に動く/そうやって/進歩を怠らず/経験を心に蓄え/作っていけば/良いのだと思う〉
「織物なり、縫製なり、優れた技術を持った工場と信頼関係を築いて、彼らと共に進歩を続け、お客様の歓びにつながるようなプロダクトを長くつくり続けていくことが、ミナの理念です。そのためなら僕は常に、その瞬間瞬間で工場には難題を言いますよ。彼らが今持っているポテンシャルと技術に、さらなる可能性を上乗せして発注し、一緒に解決を図ることが、お互いにとってベストだと思うんです。時には難色を示されることもありますが、もし相手が可能性に挑もうとしていないと感じたら、とにかく粘ります(笑)。感情的に怒ることはまずありませんが、なぜできないのかという問いをひたすら繰り返し、『じゃあ逆にこうすればできそうですね』と、時間をかけて扉を開けていく。そうやって現状を打破していくことがお客様の満足につながれば、一番だと思います」
そこでは自分がデザイナーであると同時に経営者でもあることが大きな意味を持つ、と皆川さん。
「メーカーというのは、すぐに収益につながらなくても長期的に見れば不可欠なトライアルがあります。僕の頭の中ではデザインも経営も一つのものだから、挑戦や投資の必要性を判断することもできるんです。そうすることで、クリエイションの可能性も工場のポテンシャルも高まるし、技術も継承されて、良いものを生み出す関係を長く続けていける。僕がデザイナーだからということではなくて、ものづくりにおいては、短期的な効率や成果だけではなく、長期的にものを見てどんな価値を創造していくかという視点が、経営者には求められるんだと思います」

そのものづくりの現場では、中小規模の製造業がうまく立ち行かなくなり、技術の継承が危ぶまれることも少なくありません。
「それは、利益配分が発注者側に偏ってしまっているからですよね。受注する製造者の利益が薄くなれば、当然存続が厳しくなってクリエイションが形をなさなくなる。そのバランスをどうとるかを考えたうえで、お客様にご納得いただける適正価格を判断するのは、デザインする側の責任です」
また、多くのファッションブランドが規模の拡大や高級化こそ成長であると考えがちであるのに対し、皆川さんは成長というものをまったく違うベクトルで考えたかったと言います。
「ミナの服は、あくまで日常の服です。日常の服づくりにとどまることで、誰でも着られて、何十年も付き合えて、着るたびに歓びを得られるようなブランドに育てていきたいと僕は思っているんです。ファッションには、新しいものに衝撃的に気づかされる歓びやサイクルの速さも必要とされますが、僕は、少し値が張っても、ずっと寄り添い、共に在ることができる歓びを大事にしたい。短期に消耗されない価値を生み出したいんです。できるかぎり“お直し”にもお応えしているのはそのため。一度に1万枚ではなく、10年、100年かけて1万枚つくっていくような長期の成長、長期の大量生産を目指したいと思っています」
たゆまず、急がず、自分たちのスタイルを大事にしながら進む。揺るぎない信念を秘めながら、皆川さんの表情はあくまで穏やかです。
「僕は、洋服と共に“考え方”もつくっていると思っています。時間はかかってもやり続けていけば、お客様にしても工場にしても、ミナのものづくりの考え方に共鳴してくれる人は増えていくはず。そういう在りようにこそ、ミナ ペルホネンの価値と責任があるのだと思います」

20周年を記念したスパイラルガーデン(青山)でのミナ ペルホネンの展覧会「1∞ミナカケル」。 秋には長崎県美術館でかたちを変えて開催(2015年10月10日~ 12月6日)。
「1∞ミナカケル」では、ファッションの領域を超えて走り続けるミナ ペルホネンの世界をアーティスティックに表現。

My favorite photographer | Akira Minagawa

アンセル・アダムス
©DR

静謐にして雄弁なモノクロームの大自然

皆川明さんがお気に入りの一冊として挙げた『This is the American Earth』は、モノクロームの雄大な風景写真で知られるアンセル・アダムスが1960年に刊行した、ナンシー・ニューホールとの共著写真集。彼はカリフォルニア州ヨセミテ渓谷や米国の国立公園などの自然を生涯撮り続け、高い技術に裏付けられた芸術性によって20世紀アメリカの写真界に大きな足跡を刻みました。「写真は撮るものではない。つくるものだ」。彼の言葉が強い説得力を持って胸に迫ります。

©DR

Ansel Adams/写真家。1902年サンフランシスコ生まれ。1927年、初の写真集『Parmelian Prints of the High Sierras』を刊行。19 32年、「ストレート写真」を追求する写真家グループ「f/64」を結成。1941年、露出をコントロールして写真の諧調を美しく再現する技法「ゾーンシステム」を開発。1974年、メトロポリタン美術館で一大回顧展が開催。1984年死去。

皆川 明

ファッション デザイナー

1967年東京生まれ。文化服装学院卒業後、1995年にファッションブランド「minä (ミナ)」を設立。2000年 白金台に初の直営店をオープン。 2003年、ブランド名を「minä perhonen(ミナ ペルホネン)」に。アパレル、家具、器などのデザインを手がける一方、美術館や東京スカイツリー®のユニフォームデザインも行う。著書に『ミナを着て旅に出よう』『ミナ ペルホネンの時のかさなり』など。

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