プリントと額装

柿島貴志

今や誰もがFacebookやtwitterなどのSNSを利用して、気軽に写真をシェアして楽しむ世の中です。撮影した写真をデータのまま保存されていることも多いのではないでしょうか。

しかし、手間と時間をかけて制作するプリント作品には、SNS上に流れてくる写真からは得ることのできない、モノとしての写真の魅力が満ち溢れています。僕はフォトギャラリーを運営すると共に、額装のコーディネーターという仕事もしていますが、撮影した画像は、プリントしてはじめて写真として「活かして」あげることができるのではないかと考えています。

その観点でプリントする場合、まずは作品に合った紙の選択が必要となります。表面の光沢感の違いや、温黒調、冷黒調など紙の地色の色味の差は、写真作品の最終的な印象に大きく影響するため慎重に選びます。紙が決まったら、そこからテストプリントと調整を繰り返し、ようやく1枚の写真が完成します。

その写真の魅力を存分に楽しむためには、ぜひ額装をしたいところです。額装は、大切な写真を破損や劣化からできるだけ守りつつ、手軽に鑑賞できる状態にする手段。フレームとガラス(アクリル)、マット(枠となる台紙)などの部材が、写真を衝撃から守ります。加えてマットには吸湿性があるため、過度な湿度をコントロールして、写真にカビが発生することを防ぐ働きがあります。ガラスやアクリルにUVカット加工されたものを使えば、プリントが退色する原因である紫外線の影響を最小限に抑えることができます。

一枚の写真を「作品」に。

その出会いを演出する。

額装にはもう一つ、写真の保護だけでなく、美しく演出する役割もあります。自分の撮影画像にしろ、他の人のものにしろ、「何を表現したかった写真なのか」を考えながらフレームを選んだり、デザインを考えたりするのは、撮影とも鑑賞とも違った写真の楽しみ方です。

その際に注目したいのはマットの幅です。写真のサイズや個人の好みにもよりますが、幅7cm程度をめやすとして、それより広ければエレガントで高級感がある印象に、狭ければカジュアルな印象になる傾向があります。また、写真の余白を生かしてマットを取り付ける場合、余白の色とマットの色が大きく違うと違和感のある額装になりがちなため、マット自体もなるべく余白の色に近い色を選択します。この他にもマットを使わないものや、写真の余白を裁ち落とす方法などさまざまな額装がありますが、大切な写真の個性を最大限に表現するためにも、慣れない方はまずは専門家に相談することをおすすめします。

さて、額装にはさらにもう一つ、「空間を演出する」という役割があります。写真が飾られた場所は、洗練された空間へと劇的に変化し、自分だけでなく家族やゲストにも、写真作品のある生活の豊かさを実感させてくれます。そもそも日本には、床の間の掛け軸を替えたり、部屋のしつらいを変えたりして季節を楽しみ、人をもてなす文化があります。「家族や友人と、作品だけでなくその空間そのものをシェアして楽しむ」。これも写真を飾る大きな魅力の一つなのです。直射日光や高温多湿の場所を避け、ぜひ作品にふさわしいT.P.O.を選んで飾ってください。

撮影し、現像する。プリントして額装し、飾る。そんなゴールを迎えた写真は、世界にただ一つの、かけがえのない“作品”となるはずです。

柿島 貴志

POETIC SCAPEディレクター

ギャラリーでの展示企画の他、写真家の作品販売、講演会やワークショップ、写真の額装などを精力的に行う。

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