構図(奈良原一高)

小林美香

奈良原一高(1931〜)が1958年に発表した「王国」は、北海道のトラピスト修道院と、和歌山の女性刑務所という、それぞれ外部と隔絶された空間に生きる人間存在を見つめた作品です。ここで紹介する作品は、トラピスト修道院の墓地で撮影されたもので、写真集『王国沈黙の園・壁の中』(1978年)の表紙にも使われています。

修道士は沈黙の行を行っていて、右手で瞼を押さえる仕草は、手話で「夜」という言葉を示しています。画面の中には、対の関係にあるもの墓地と修道士(死者と生者)、写真が撮影された日中と「夜」という言葉、前面に現れている手とその後ろに隠れた顔が捉えられていて、その対の関係にもとづいて、全体の構図が緻密に形作られているように思われます。

写真の中で目をひきつけられるのが白く輪郭が浮き上がっている部分、つまり修道士の僧衣の袖と手、そして背景の十字架です。画面の右上から左下に対角線を引いてみると、前腕の上側の線と重なり、もう一本の対角線を引くと袖口の線とほぼ平行になることがわかります。前腕の下側にあわせて対角線と平行線を引き、同じ幅に対角線の上に平行線を引き、さらに左上からの対角線と平行になるように画面の縁とそれらの平行線を結ぶように線を引くと、同じ大きさの菱形が二つできて、右上の菱形の中には修道士の頭部と手が、左下の菱形に肩と腕が収まって、肘と頭頂部が画面の中心から点対称の位置関係になります。修道士の顔が収まった菱形に対角線を引くと、縦の線と画面の対角線の交差するところに眉間が重なり、横の線が瞼に重ねられた指の位置に重なって、菱形の対角線が十字として浮かび上がってきます。

このように構図を分析しながら背景の十字架と修道士の顔の十字を意識して見てゆくと、画面全体の奥行きや白と黒の配分に動的なリズムが感じられ、沈黙の中で発せられた「夜」という言葉が孕む意味がより深いニュアンスを帯びてきます。

奈良原の作品に通底するこのような優れた造形感覚は、主題と深く響き合い、忘れがたい印象を残す作品世界として結実しているのです。奈良原は、写真集『王国沈黙の園・壁の中』のあとがきの中でこう語っています。「うつし出された写真の世界そのものは、遂には外にある現実と内にある心の領域とが出会ってひとつとなった光景のようにさえ思えたのだ」、と。

小林 美香

東京国立近代美術館客員研究員

国内外で写真に関する講義やワークショップを行う一方、展覧会の企画や雑誌への寄稿など、多方面で活躍。

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