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第一話|60-600mm F4.5-6.3 DG OS HSM | Sports を語る

皆様、こんにちは。SIGMAの大曽根と申します。1987年にSIGMAに入社して以来、技術者としてカメラ/レンズの開発に携わってきました。レンズ開発の責任者を経て、SIGMA GLOBAL VISIONがスタートした2012年からは、商品企画部とOEM・新規事業部の部長として、SIGMAの製品開発の上流部分から携わっています。
ただし、「生粋の技術者」というよりは、中学・高校・大学と写真部だったカメラマニア、レンズマニア、と言った方が実態に近いかもしれません。
30年以上にわたってSIGMAの製品開発に関わってきた立場から、製品開発の歴史やその魅力を、時代や市場の背景、今だから言える失敗談(笑)なども交えてお伝えできればと思っています。
初回となる今回は、Photokina 2018で発表した新製品、60-600mm F4.5-6.3 DG OS HSM | Sportsのバックストーリーから始めたいと思います。

革新の超望遠10倍ズームが誕生するまで

2000年の「PHOTO Expo」(現在の「CP+」の前身)で、SIGMAはAPO 50-500mm F4-6.3 EX RF HSMを発表した。500mmクラスの超望遠ズームとしては史上初の10倍ズーム。SIGMAが135-400mmと170-500mmで自ら作り上げた超望遠ズーム市場を拡げる1本であり、またさまざまなスポーツシーンを1本でこなせる夢のレンズの登場でもあった。

ではなぜ、SIGMAだけが超望遠域をカバーする10倍ズームの開発に成功できたのだろうか。これにはSIGMAの生産体制のアドバンテージが大きく寄与している。当時すでにSIGMAには400~500mmクラスの超望遠ズームを大量生産できるノウハウが十分にあった。特に大口径の特殊低分散ガラスを精度よく研磨できる技術を確立していたことが大きいといえる。どんなに良いレンズの企画も、生産できなければ絵に描いた餅である。

APO 50-500mm F4-6.3 EX RF HSM

半面、光学設計は苦戦した。従来の超望遠ズームのレンズ構成をそのまま応用できなかったため、代わりに一般的な高倍率ズーム(28-200mmクラス)のレンズ構成をベースに設計を進めることになったのだが、メカ構造の制約に苦しめられ続けた。最終的には、10cm近く前玉が繰り出すことを許容できるメカ構造が完成したこと、最短撮影距離を焦点距離ごとに変える(=つまりバリフォーカルにする)ことでどうにか実現させることができた。

そもそも50mmと500mmの最短撮影距離を同じにすること自体に無理があったともいえる。APO 50-500mm F4-6.3 EX RF HSMでは、最短撮影距離を50mm側で1m、500mm側は3mにすることによってフォーカスカムの設計に自由度を与えるとともに、50mm域での使い勝手の良さを確保できた。その代償として、近距離付近でズームすると当然ピント位置は変わってしまうのだが、これについてはオートフォーカスの進化に期待した。

大きな反響を得た「APO 50-500mm F4-6.3 EX RF HSM」

この10倍ズーム、500mm側の性能の高さもあってユーザーから大きな反響を得た。サッカーやラグビーのように広いフィールドで行うスポーツでは、遠距離から近距離までシームレスで撮れるのは大きな強みとなる。航空ショーなら、機体も編隊も自在に撮ることができる。まさに夢の超望遠だったのである。

やがてこの50-500mmはコーティングが変更されてDGシリーズに加わり、2010年には手ブレ補正OS機構搭載の新型にモデルチェンジ。SIGMAの定番商品となっていった。

APO 50-500mm F4.5-6.3 DG OS HSM

超望遠ズームは500mmから600mmへ

2013年以降、超望遠ズームのテレ端は500mmから600mmへとシフトしてきた。SIGMAも2014年のPhotokinaで150-600mm F5-6.3 DG OS HSM|Sports150-600mm F5-6.3 DG OS HSM F5-6.3|Contemporaryの2本を発表。さらに2017年には100-400mm F5-6.3 DG OS HSM| Contemporary を発表し、超望遠ズームのラインナップを拡げてきた。

SIGMA 150-600mm F5-6.3 DG OS HSM | Sports
SIGMA 150-600mm F5-6.3 DG OS HSM | Contemporary
SIGMA 100-400mm F5-6.3 DG OS HSM | Contemporary

そして今年、2018年。満を持してPhotokina 2018でAPO 50-500mm F4.5-6.3 DG OS HSMの後継機種である60-600mm F4.5-6.3 DG OS HSM | Sportsを発表した。

しかし、この600mmの10倍ズーム開発は容易ではなかった。特に問題となったのは重量だ。光学設計・製造という点では、過去機種からのノウハウの蓄積もあって大きな課題はなかったが、600mmに対応したレンズ、特に前玉の重さと、10倍ズームならではの複雑な金属カムによって、かなりの重量になることが設計段階でわかっていたからだ。メカ設計者から提示された重量は3.3~3.5kg。500mm F4に匹敵する重さだ。この60-600mm F4.5-6.3では、まず軽量化に注力することになった。

「マルチマテリアル構造」で光学性能と軽量化を両立

しかし、軽量化のために光学性能を下げるなどはあり得ない。10倍ズームであっても150-600mmと同等の性能を発揮してこそ、フィールドで活用されうるのだから。まずは、機構部品に新素材を積極的に採用した軽量化策が提案された。強度が重要なマウントや三脚座近傍にはマグネシウムを、ズームリングやマニュアルリングなどユーザーが実際に握る部分にはCFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics)を採用。そして精密さが求められるカム部品の一部を金属からTSCに代えることで、大幅な軽量化に成功。この「マルチマテリアル構造」によって、最終的には総重量2.7kgと最大約20%も軽量化できた。特にフードを含めレンズ先端側が軽くなったことで、撮影時の体感重量は実際以上に軽減できたと自負している。

60-600mmF4.5-6.3DG OS HSM | Sportsにはこの他、Sportsラインにふさわしい特徴や機能が満載されている。加えて、長年の超望遠ズーム開発で培った高い光学性能、充実のアクセサリーなどここでは語り切れない魅力がまだまだ多く残されている。私の語りから少しでも興味を持っていただけたなら、是非60-600mmF4.5-6.3DG OS HSM | Sportsを店頭でお手にとっていただきたい。

Yasuhiro Ohsone

株式会社シグマ 商品企画部長

1987年入社。光学、メカともに開発の現場を歴任し、他社との協業も数多く担当。2013年より現職。

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