Pursuit of ideal 理想の追求

Winter/2017

業者であり父の山木道広が他界してから2017年1月でちょうど5年になる。この間にカメラ市場も大きく変わり、当社もまたいろんな意味で変革を遂げてきた。創業者を知らない社員も徐々に増えつつあり、世代交替が確実に進んでいることを実感している。

それでもなお、いや、5年経った今だからこそ、創業者の影響がいかに大きいものであるかを日々実感している。

山木道広はいわゆる昭和ひと桁世代。一見スマートな出で立ちの父であったが、同じ世代に通ずる強烈で強情とも言える頑固さを持った人間だった。

とりわけ、先代のモノづくりへのこだわりは尋常ではなかった。実に数百点にものぼる部品を精緻に組み上げて製作する交換レンズには、調整によってガラスの芯を合わせるという技術「調芯」が広く使われているが、先代はこの調芯を決して受け入れようとしなかった。「調芯で性能を出そうという発想は根本的な間違い。あくまで部品の精度を徹底的に追求して性能を出すべき」と。

また、「レンズの研磨面は竹を割ったように」とも。研磨されたレンズに検査用レンズをかざして傾けると干渉縞やニュートンリング(写真上)が現れるのだが、この干渉縞の出来映えを、比喩的に表現したものだった。機械の加工精度を超えた世界を実現するよう指示された現場は、さぞかし大変だったと思うが、皆必死に先代の思いを遂げようと努力した。

現在では現実路線を取って他社同様、調芯工程を取り入れているが、当社の場合は、あくまで部品の精度を究極まで追求した上で、微調整を入れるというのが基本的な考え。精度の緩い部品を前提とした考えはなく、今でもストイックなモノづくりの哲学を維持していると思う。いくら年月が経とうとも、創業者の思いは我々の精神構造・行動様式に影響を与え続けている。

(文/山木和人 シグマ代表取締役社長)

Share on social media