Breakthrough with laughter 笑いの突破力 『オースティン・パワーズ』

Autumn/2016

好きな映画は?」と聞かれることが多いのだが、いつも答えに窮する。『独裁者』『ゴッドファーザー』『ライフ・イズ・ビューティフル』等、強い印象が残っている作品は多いからだ。しかし、「最も影響を受けた映画」なら、すかさず『オースティン・パワーズ』と答えることにしている。ふざけ半分に思われるかもしれないが、事実なので仕方ない。ご存知のとおり『オースティン・パワーズ』は007シリーズ(これも大好き!)のパロディ映画であり、お下品・お下劣と評されることもあるが、そんな部分も含めて気に入っている。

シリーズ第一作が公開されたのは、私が20代を終える頃だった。当時は仕事上の悩みや将来に対する不安を抱え、鬱々とした日々を送っていた。自分の人生でもとても辛い時期だったのだが、そんな時に何気なく観たこの映画で心底笑った。おかげで何かが吹っ切れたというか、それまでの重苦しさがすっきりと晴れ渡っていく感覚は、今でも昨日のことのように思い出せる。どこまでもバカバカしく天真爛漫なオースティンは、「やることさえやり切ったら、あとは楽天的でいいじゃないか」と思わせてくれた。サウンドトラックが“イカして”いたのも音楽好きの自分にはぴったりだった。

そういえば、当社米国現地法人の社長の風貌がどことなく劇中の“Dr.イーブル”に似ているので、会議などでふざけて彼をそう呼ぶことがある。もちろんこちらはオースティンになったつもりで。しかし彼もユーモアのセンスがあって、私を“ナンバー2”と呼び返す。なかなか痛快だ。今、社内でこんなおバカなやりとりができるのも、オースティンのお陰と感謝している。

マイク・マイヤーズの主演・プロデュース・脚本による『オースティン・パワーズ』は1997年の制作。第2作(1999年/写真)、第3作(2002年)と合わせ、世界中でヒットシリーズとなった。

(文/山木和人 シグマ代表取締役社長)

Share on social media