人類と文明の終焉をテーマにした 杉本博司の『ロスト・ヒューマン』展

text: 河内 タカ

Autumn/2016

2014年9月から大規模なリニューアル工事を行い、2016年9月に新装オープンしたばかりの東京都写真美術館。その第一弾として開催されたのが、ニューヨークと東京を拠点にしながら、今や写真のみにとどまらず、彫刻や建築、舞台芸術にいたる多彩な活動を行っている美術家・杉本博司による『ロスト・ヒューマン』と題された展覧会です。2階と3階の展示室を使い、「人類と文明の終焉」をテーマに3つのシリーズで構成された展示は、ここ近年の杉本の取り組みの集大成になっています。

啓示的とも、あるいは杉本流のジョークとも受け取れるこのテーマを象徴するのが、「今日 世界は死んだ もしかすると昨日かもしれない」という33のシナリオによって構成されたシリーズで、これはパリのパレ・ド・トーキョーという現代美術館において2014年に発表したものを新たに練り直したものです。実はこのパリの展示を見に行く機会があり、そこで体感できたのは、老朽化が進んだ会場を逆手に取り、それまでの杉本のイメージを覆すほどのさまざまな趣向が凝らされた展示でした。時間と歴史をテーマとしてきた杉本が巧妙に仕掛けた“個人博物館”化した会場には、ニューヨークを襲った大型ハリケーンによる水害で激しく損傷した「最後の晩餐」を撮った写真と共に、化石や隕石、古美術や遺物といった自身のコレクション、そしてさまざまな絶滅のシナリオに関する記述を添えることで、どこか煙に巻くような構成がなされていたのが印象的でした。

そのシリーズの一環として展示されていたのが、杉本が初めて試みたプラチナプリントで焼いた『On the Beach(渚にて)』です。これは90年代初頭に杉本がニュージーランドへ海景を撮りに行った際に、その浜辺に漂着していた旧式の車の残骸やパーツを撮ったものだそう。手持ちのフィルムがなくなり現地で調達した不慣れなフィルムで撮影したものだったため、長らく発表できなかったものを、新たにプラチナプリントという古典技法によって蘇らせたという異色作です。

そして、本展覧会において初公開となるのが〈廃墟劇場〉で、その題名が示唆するように、このシリーズは廃墟化した映画館や劇場を撮ったものです。特設したスクリーンに自らが持ち込んだ映画を投射し、きっちり上映一本分の光量を使って劇場全体を撮ることで、中央の白く発光するスクリーンが朽ち果てた空間をおぼろげに浮かび上がらせた退廃的ともいえる作品は、均整の取れた杉本のこれまでの『劇場』と異なりどこか不穏に感じられるのも、おそらく文明や歴史の終わりを象徴しているのかもしれません。独自の生命体を持ち、「今日、世界は死んだ……」という声がエコーしてきそうなその白いスクリーンに引き込まれつつも、心のどこかで「それでも人類は、まだまだ存続しますよね?」と問いかけたい気持ちにもなるわけなんですけどね。

《廃墟劇場》 アメリカ各地の廃墟と化した映画館において、スクリーンを張り直し、作家自ら歴史の終わりを主眼に選んだ映画を投影し、上映一本分の光量で露光した杉本の新作。 杉本博司《パラマウント・シアター、ニューアーク》2015年、ゼラチン・シルバー・プリント  ©Hiroshi Sugimoto / Courtesy of Gallery Koyanagi

河内 タカ

高校卒業後、サンフランシスコのアートカレッジへ留学し、卒業後はニューヨークに拠点を移し、現代アートや写真のキュレーションや写真集の編集を数多く手がける。長年に渡った米国生活の後、2011年1月に帰国。アマナの写真コレクションのディレクターに就任し国内写真家に限定した写真作品を収集。2016年には自身の体験を通したアートや写真のことを綴った著書『アートの入り口(アメリカ編)』(太田出版)と続編となる『ヨーロッパ編』を刊行。2017年1月より京都便利堂の東京オフィスを拠点にして、写真の古典技法であるコロタイプの普及を目指した海外事業部に席を置き、ソール・ライターやラルティーグのポートフォリオなどを制作した。

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